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六月 曇り 眠さ

学生の時、ただうまく発表ができなかったとかそんな理由で、帰り道のバスの中で泣いていたら、通路を挟んで向こうに座るおばあちゃんに「失恋?しんどかったんやねえ」と心配されたことがある。

同じ時期に、とにかく泣かされる恋愛をしていた。
いつも終わりそうな話をしては、ひんひん泣きながら、彼に会う以外乗る理由がないクリーム色のバスに乗って帰った。
みんな「そっとしています」と空気で訴えている感じが気まずくて、でも腹が立つほど涙が止まらなくて、その怒りでさらに泣いた。
今思えば、あのとき放っておかれて良かったと思う。そうでないと泣くことすらできなかったかもしれない。
そのバスはもう廃線になっていて、とうとう一生乗ることがなくなってしまったのが悲しい。


月に一回の通院に向かう時にしか乗らないバスは大概疲労のせいで眠ってしまっていて、でもその時の眠りが一か月の中でいちばん無責任で心地良くて、起きた後の充実感が半端ない。
夫と眠る布団は、特大の愛にくるまれてとっても安心するけれど、そのぶん恐怖もはらんでいるから。
ひとりで電車とかバスに乗る私は何者でもなくて、それを嬉しく感じるときがある。誰にも気に留められないまま、ただのモブとして過ごす。社会人とか、人妻とかいう肩書もだし、私そのものからも降りられる身軽さが気持ちいい。
だから心置きなく、うとうとする。一丁目が過ぎないようにだけ気をつけながら。

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