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オニヤンマ事件

子ども達が大きくなった今では、夏の田舎への帰省は、ままならなくなった。昨年も今年も受験生を抱え、そして世の中の大変な状況も重なってしまって、次に私の実家へ帰れるのはいつになるのか、見通しが立たない。

でも、幼い息子が初めてオニヤンマと格闘したあの夏のことは、毎年思い出す。

※※※

私の実家は田舎にあるので、夏は、カブトムシもいるし、大きくて怖いくらいのオニヤンマも、ブンブン飛んでいる。

4~5歳頃、虫捕りに夢中だった息子にとって、田舎の爺ちゃんの家は、朝から晩まで虫捕りに熱中できるパラダイスだった。

毎日、夜になると、爺ちゃんと、カブトムシを捕るための仕掛けを作って、裏山に仕掛けに行く。

そして、朝は鶏が鳴く前から飛び起きて、カブトムシがかかっているか、見に行くのが日課だった。

そして、昼間は、オニヤンマに夢中。

どうしても自分で捕まえてみたくて、汗ダラダラで虫取り網を振り回す。

「もうお昼ごはんだから、いったん家に入りなさい。」

という大人の声など、聞いちゃぁいない。

熱中症も心配だから、何と言って家に入らせようかと気を揉んでいるうちに、ブンブンと、こちらを挑発するようにオニヤンマが飛んできた。

ハッと身構え、ヤーッと網を振り回す息子。

ハッシと地面に網を押し付けて、網の中を確かめる。

大人達も、息をのんで見つめる。

「……う、う、うわぁ~ん!!!」

どうしたのかと駆け寄ると、息子が力づくで地面に押し付けた網のフチが、オニヤンマの首にかかっていて、なんと頭がもげていた!

「い、い、生きてるオニヤンマが、いいのに……うわぁ~ん(´༎ຶོρ༎ຶོ`)!」

汗と涙で、体中の水分が全部出てしまうのではないかと思われるほどの泣きっぷりだった。

疲れもあるから、とりあえず、なんとかなだめて、オニギリを1つ食べさせる。

爺ちゃんは、長くなりそうな戦いに備えて、リポ〇タンを飲み干す。

しゃくりあげながらオニギリを飲み込み、少し眠って、夕方また外へ出て行った息子。
あぁ…昼寝をしても忘れてなかったのね!

「どうかオニヤンマを捕まえられますように。また頭がもげたオニヤンマを埋葬するなんてことにはなりませんように。」

祈る大人達。

※※※

そこへ、またしても挑発的に飛んできたオニヤンマ。

飛び掛かる息子。

空中で網をブンブンと振り回して、地面にハッシと押し付けた。

おそるおそる、みんなで近寄る。

……すると、網の中で、ブブブ、ブブブともがくオニヤンマ!

「い、生きてる!あぁ、神様、ありがとう!」

胸をなでおろす大人。

「やった!やった!ぼく、ひとりでオニヤンマ捕ったよー!」

飛び跳ねて大興奮の息子。

虫かごの中で暴れまわるオニヤンマを眺めつつ、息子は大量の麦茶と夕ご飯、大人はビール、ついでに妹も、ジュースでお祝いした。

みんなバタンキューした翌朝、みんなでオニヤンマを山に放して見送った。

息子のひと夏の冒険に力を貸してくれて、ありがとう。

バイバイ、またね。

※※※

あの夏、どうしても生きているオニヤンマを自分の力で捕まえてみたかった息子は、今、自分の夢をつかみ取るべく、大学受験に奮闘中だ。

大人たちは相変わらず、ハラハラしながら、オニギリや麦茶を用意し、自分の見守る気力・体力を保つために、こっそり栄養ドリンクを飲んだりすることしかできないでいる。

でも、挑戦してみないことには何も得られないことを、息子は知っている。そして、果敢に挑んでいる。

母は、それだけで胸がいっぱい。


どんな結果も一緒に受け止めるから、納得のいくように、やってごらん。

あの夏が、今、たまらなく恋しい。

maman.

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