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あいつは何もわかっていない #葉野菜

あいつはわかってない。
幼稚園に入る前から一緒にいる、いわゆる幼なじみってやつにも関わらず。
高校もあいつから同じとこにしようと提案してきたくせに。
あいつは全然わかってない。
本当に何もわかっていないのだ。

何がわかってないのか?
例えば、あいつと2人で遊びに行った時。
あいつは当然のように、車道側を歩く。
当然のように、僕の好きなところへ行く。
僕との会話で話題に出たスイーツはすべて把握して。
それを調べた上で、当日に、
「どこ行きたい?」
なんて僕に選ばせる余裕さえ持ち合わせている。
全部、僕の好みを把握した上で、
僕の好み優先で遊びに行く。
そんなの楽しくないわけがないわけで。
だからあいつは何もわかっていない。

例えば、高校を選んだ時。
「どの高校が良い?」
と聞けば、
「んー、お前と一緒がいい。」
と答える。
本当かどうかを何回も確かめても、
やっぱりあいつは僕と一緒がいいと言っていて。
理由を聞けば
「だってお前とずっと一緒にいたいし、ダメ?」
僕の顔を覗き込むように、少し近づいてきて。
そんなのダメなわけが無かった。
そんなの、嬉しくないわけがないんだ。

例えば、好きな人を聞かれた時。
成績優秀で運動もできるあいつは、
そこそこモテるのにも関わらず。
あいつはキッパリと
「好きな人?いないよ。」
と言い切るのだ。
しかも、どんな人がタイプかを聞かれると、
「んー、あ、こいつみたいな奴が良い!」
と僕を指さして満面の笑みで言ったりして。
動揺しないわけがなくて。
それに勝る嬉しさがあるわけで。

だから。
本当に、本当に、本当に、
あいつは何も分かっていない。

僕に当然のように向ける優しさは、
全部他の人にも分け与えられる。
同じ分の優しさを。
あいつは器用に、皆に行き渡るように努力する。
僕にとって、その努力が、優しさが、邪魔だった。
彼の全てを僕に向けてくれなければ
意味がなかった。
そう。
他の人じゃ意味がないんだ。

僕があいつと遊びに行く時、
毎回のように1番オシャレだと思う服を着るのは。
僕が高校を選んだ時、
あいつとの学校生活を想像して頑張っていたのは。
僕が好きな人を聞かれた時、
迷いなく、あいつの顔を思い浮かべてしまうのは。

紛れもなく、あいつのことが好きだからで、
紛れもなく、全部あいつが優しいからで。

紛れもなく、あいつの優しさの全部が欲しい僕がいた。

叶わないことはわかっている。
僕は男。あいつも男。
恋愛に性別は関係ないなんては言うけれど、
結局お互いの意思がなければ成されない。

「おはよう」の声についにやけてしまって
「帰ろうぜ」と言われて嬉しくなって
「あの子可愛いな」と言っているあいつを見て。

『あぁ報われないな。』と思う僕がいる。

今日も僕はあいつを見ている。
好きとか、全部。
全部隠して。

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