「一本の木」 喪失(Grief)から恵み(Grace)への変容物語
この写真の木は一本の銀杏の木。清水友邦さんが撮ったものだ。
一つぶの種から木は、多くを喪失し、そして、恵みを受けて、命の循環の中で生きている。
11年前の12月1日未明、
猫のオリバーが旅立った。
喪失の悲しみを書き出した。
すると
Greif(喪失)の種からGrace(恵み)の花が咲くように、
心の中に潜んでいた、固い蕾が開き、物語が生まれた。
「一本の木」
広い草原に 一本の木が立っていた
木には 仲よしの 友だちがいた
猫のオリバー
ある冬の朝 オリバーは死んだ
木の脇の地面に ぽっかりと 大きな穴があいた
見たこともない 大きな穴
雨が降り 冷たい北風がふいた
地面はぬかるみ 弱くなった
木は 北風に押されて 倒れた
すると 土の中から 根が 姿をあらわした
幹は 生まれて初めて 根を見た
「なんて 細くて 沢山のひだをつけ 先端は なんて白いのだろう」
幹は びっくりした
根も 生まれて初めて 幹を見た
「なんて 太くて 沢山の緑をつけ 幹の皮は なんて黒いのだろう」
根は びっくりした
幹は、根が 自分と同じ姿をしていると ずっと 思っていた。
地面の中に 黒くて 太い 枝を伸ばし 緑の葉をつけると 思っていた。
幹は 根を見て 思った。
「なんて よわっちい やつ」
根も、幹が 自分と同じ姿をしていると ずっと 思っていた。
地面の上に 白くて 細い 根を伸ばし 灰色のひげをつけると 思っていた。
根は 幹を見て 思った。
「なんて ごっつい やつ」
幹は根とつながっていることが、嫌だった
根も幹とつながっていることが、嫌だった
幹は 上へ 上へと 伸びてゆく、、、
太陽の光を たくさん 浴びるために
根は 下へ 下へと 伸びてゆく、、、
大地の水を たくさん 吸い取るために
幹は 自分の根が はずかしかった
よわよわしく へなへな して 自分とは違う 根が 嫌だった
根は 自分の幹が こわかった
ごわごわして ばりばり して 自分とは違う 幹が 嫌だった
幹は 体が 倒れて 恥ずかしく 痛かった
根は 体が 現われ かなしく 寒かった
そして 幹も 根も 干からびはじめた
根は 幹に 話しかけた。
「君は 僕のこと ちっとも きにしてないね
いつも いつも 太陽ばかり見て
風や鳥とばかり 話して
僕のことなんか ちっとも きにしてないね」
幹は 根に 答えた。
「君は 僕のこと 一度も 励ましてくれたことがないね
いつも いつも 下ばかり見て
僕が 風や鳥に 痛めつけられているのに
僕のことなんか ちっとも 励ましてくれないね」
根は それを聞いて 怒った。
「君は 僕を無視している。
幹は 僕を大切にしてない。
君は 僕を押さえつけている。」
根は ずっと 根に思っていることを 言った。
幹は それを聞いて 驚いた。
「僕は 上にしか 伸びられない
僕は 君に ほめてもらいたかった
こんなにも 枝を伸ばし 葉をつけ 花をつけ 実を成らせたことを」
しかし 幹は 気がついた。
自分が いかに 根の重荷になっていたこと
自分にとって いかに 根が大事かってこと
幹は 根に
「ごめんね
君は僕 そして 僕は君
僕と君は 一本の木なんだね
君のこと 大事に思ってなかった
ごめんね」
幹は 根に お礼を言う代わりに 沢山の葉と実を落とした
根を 守りたかった
根は とても 寒がり
だから 枯葉のふとんと実を 根に プレゼントした
根の上に たくさんの 葉と実と幹の涙が こぼれおちた
根は 葉と実と涙に包まれた
幹の 葉と実と涙が土の中
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、沈んでいった。
そこに この木を愛する村の人たちがやってきた
村人は この木が倒れたのを見て おどろいた
そして 皆で力を合わせ この木を元に戻そうとした
村人は 考えた
この穴を埋め
木を 立ち直らせるにはどうしたらいいのかと
そこで 村奥の山に住む仙人に所に行くことにした
仙人は 言った
「ここにある 大きな岩を皆で押し、木の元まで転がし穴を埋めなさい」
村人は 大きな 大きな岩を押した
しかし その岩は びくともしなかった
全ての 村人が力を合わせたが 岩はびくともしなかった
そこで ある子供が 固く太い枝を
そこに ある老婆が 一本の木の蔓を
そして その仙人が 一つの小石を 拾ってきた
力のある 男たちは 固い木の枝を入れ てこにした
力のある 女たちは 蔓を 編んで藁にし 地面に敷いた
力のない 子供達は 小石を拾い 藁の上にならべた
男たちが てこの幹を持ち上げると 岩が ぎぎっと 動いた
女たちが 蔓を引っぱると 岩は ぐぐっと 動いた
子供達が 藁を引っ張り小石を動かすと 岩は ずるっと 動いた
岩は 山の斜面を 徐々に 転がり始めた
皆が 力と 声を 合わせると
岩は どん どん どんと 音を立てながら
ごろごろと ころがり
ついに 木の元へ
そして 大きな穴の中に 入った
女たちは 木に 縄を巻き
子供達は 岩の上に 立ち
男たちは 力の限り 引っ張った
老若男女 村人全員が 声を 合わせた
うんしょ うんしょ どっこいしょ
うんしょ うんしょ がんばりや
うんしょ うんしょ 立ち上がれ
そして ぎしっ ぎしっと うなりながら
木は 体を綱に預け 徐々に 体が上がってきた
村人は 汗を流し 声をだし 息をあわせた
うんしょ うんしょ
どっこいしょ どこいしょ
木はついに 立ちあがった
男たちは 木の根元に 土を盛った
女たちも 木の根元を 土を踏んだ
子供達は 木の根元で 踊った
木は 立ち直った。
幹と根に 温かい 樹液が流れた。
幹は すくすくと 天に向い 枝を伸ばし
根は すくすくと 核に向い 根を伸ばす
幹は 根を 愛おしく 思った
根は 幹を 尊いと 思った
幹と根は 言った
「私達は ひとつ
私達の 使命も ひとつ
実を実らせ 種を地に落とす
種から 新しい命が 育まれ 葉を茂らせ 葉を地に落とす
ひとつの命に 生き
ひとつの命に 死ぬ」
そして 木は 村人に お礼を言った
「ありがとう ありがとう 心からありがとう」
そして、村人たちは 言った
この木は ここからいつもこの村を見守っていてくれた。
これからも ここで 私達を見守ってくれる。
ありがとう。
本当に よかった。
一本の木は
そこで
広く 枝を 広げ
深く 根を 下ろした
たくさんの 鳥たちが 足を 休め
たくさんの 動物たちが 暑さから 逃れ
たくさんの 虫たちが ここに 住んだ
村人たちが この木に 集まってきた
村人たちは この木を 大切にした
村人たちを この木は 見守っている
村人たちは 木の脇に すえた岩の上に座り
共に 唄を歌い
共に 食べ
共に 踊った
この木は
村人たちの
いのちの木
いこいの木
いちずの木
と なり
村人たちが 運んだ岩は
木の友となり
この木に寄り添う岩となった。
02/01/2010
02/26/2016
10/11/2020 改定
この物語に どなたかの 絵が添えられ
絵本となって
Graceの種となって
喪失に悲しむ人たちの元に
届く日を希望しながら。。。
この写真は、尊敬する「仙人」、清水友邦さんのFacebookより掲載させて頂いた。許可して下さったUFOさんに心より感謝いたします。
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