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『うた恋い。』を入り口に『伊勢物語』を妄想過多に読む🍁「ちはやぶる」と「つくばねの」

伊勢物語の三段から六段にかけては、在原業平と二条の后・高子の恋物語だというのはもう既存の事実扱いでいいでしょう。さて、業平はなぜ、わざわざそんな危険な恋をしたのか?


伊勢物語を読み進めてくと、主人公が「男」とボカしてあるわりに、ハッキリと名前が出てくる人がいます。まず一人目は「紀有常」、業平はこの人の娘を妻にもらっていて、仲が良いようです。

二人目は「惟喬親王」、有常の妹、静子が文徳天皇の更衣になって、もうけた第一皇子です。馬の頭という身分だった業平は 惟喬親王に仕えていた様子。鷹狩りに出かけたり、お酒を飲んだり、惟喬親王の出家にショックを受けたり、エピソードも満載です。

さて、この惟喬親王ですが、第一皇子なのに天皇になれませんでした。後から生まれた藤原明子(染殿后/高子のいとこの后)の皇子が清和天皇となります。

明子女御(藤原氏)vs 静子更衣(紀氏)

こうしてみると、業平は高子のまるっきり敵陣営、といえます。そして業平は高子より十七才も年上、誘惑しキズモノにして、入内を阻止したかった、そんな計略だったのでは?

しかし、高子は予定通り、清和天皇へ入内します。ちなみに高子は 天皇より八つ年上の姉さん女房。政略結婚の匂いがぷんぷんしますね。業平との恋が表沙汰になったであろう高子が入内したことは、それだけ藤原氏、特に高子の兄基経の権力が大きくなっていた証のように思えます。

そして高子の皇子は九才で陽成天皇に即位、十五才で元服してすぐ、十七才で退位してます。退位の理由はひどく粗暴すぎたとのことですが、果たしてそうなんでしょうか?

つくばねの みねより落つる みなの川 恋ぞつもりて ふちとなりぬる

百人一首にとられた陽成院の歌からは粗暴さは感じられません。

私は、基経が陽成帝を傀儡として扱おうとしたが、陽成帝、高子共々、自分の意のままにならないので、強引に退位させた、と妄想してしまいます。

『うた変2』では、陽成天皇は在位中、一人も正式な后をもたなかった、とあります。娘を入内させ、皇子を生ませたい基経は、その辺も気に入らなかったのでしょう。

更に、業平の蔵人の頭抜擢は高子の人事、とあります。基経がわざわざこんな人事するわけないので、そうなんでしょうね。高子の意思の強さを感じます。

ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれないに 水くくるとは

屏風に和歌を添える名誉を授けたのも、高子の業平への愛の示し方、と捉えたいです。

『うた恋い。』では、業平の蔵人の頭の主な仕事は
陽成帝のお守り、なんてシーンもあります。陽成帝が和歌だけは素直な気持ちで詠めるのは、業平が教えたおかげ、という『うた恋い。』の解釈も面白いな、と思います。

そして、業平は陽成帝を見ながら、自分の子の可能性もある、と考えます。

実際そんな噂もたったでしょうね。
それが後に、紫式部の『源氏物語』に出てくる、源氏、藤壺、冷泉帝のモデルになってたり?などと妄想するのも楽しいです。

さて、伊勢物語第百五段に
男が「死んでしまいそう」と言ったら、女が「勝手に死ねば?」と返す、ツンデレ・エピソードがあります。
その女が誰か、とは書いてないのですが、白露、というワードが第六段を連想させます。

白玉か なにぞと人の 問ひし時 露とこたへて 消えなましものを

若く世間知らずで、野草につく露も知らないでいた高子。

駆け落ちに失敗し、月日は流れ、帝の母として権力を持つ。そして業平を蔵人の頭にする、という形で再会する。もうすっかり昔のことはネタ扱いで、「死んでしまいそう」なんていう業平に

白露は 消なば消ななむ 消えずとて 玉にぬくべき人もあらじを

(白露は消えてしまうなら勝手に消えてしまえばいいでしょう)

と冷たく返す。
昔のことをちゃんと覚えてた上で、上手いこと返され、惚れ直した、そういう話なんじゃないのかしら?これ?

きっかけは偽りの恋だったかも知れない。
引き裂かれて結ばれなかった昔の恋。
だけど、長い年月を経て、陽成帝を育てることで、また関わりを持った関係。成熟して気持ちに余裕のある、大人な二人。

杉田圭先生の、高子のキャラクターデザインも ほんと秀逸だと思います。気高く、気が強く、美しい。
それは史実の細かいエピソードを拾って、イメージを膨らませた結果なんでしょうね。

さて、マンガ『ちはやふる』では業平の「ちは」札は主人公・千早の得意札であり、担当札、とも言われてます。
『ちはやふる』のキャラクターは 百人一首にちなんだ名前がつけられており、その札のことを マンガのファンたちは 担当札と言っているのです。
次は 太一の担当札と言われてる「たち」の行平の話や、他のキャラの担当札の歌人の話ができたらいいな、と思ってます。

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