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あの人
わたしの中に、今まで何人の「あの人」が入れ代わり立ち代わり、存在しただろう。
久しぶりに、わたしの中に「あの人」が表れた。
あの人が笑うと、赤ちゃんが笑ったときみたいに気持ちがほころび、暖かく、心が締め付けられたようになる。
気が付いたら、あの人のことを探している。あの人を目で追っている。
少しでもあの人と同じ空間にいられるように、あの人を見ていられるように。
恋している。
何年ぶりだろうか。こんなに心がドキドキして、何かに押さえつけられたように苦しい。
それなのに、わたしは素直じゃないみたい。
あの人がわたしのことを見ていると、なぜかいじらしく、目を合わせない。
わたしの中の悪女。
あの人のわたしに向けられた恋のベクトルを狂わそうとするかのように、わたしの中の悪女は知らないふりをする。
どうしてもっと素直に、まっすぐ、恋は成就しないのだろう。
お互い想いあう気持ちは昂るばかり。
恋の幻想は深まるばかり。
それなのに、まだお互いに、素直になれず、じらして、じらして、じらし続ける。
ああもったいない。
ばかみたい。
こうして、しばらく何もなく、そして、何もなくなっていくのだろうか。
今にもあの人の胸の中に駆け込みたいのに、あとちょっとの勇気と自信がない。
ちっぽけなのね。わたしなんか、
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