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【連載小説】奴隷と女神 #12

※ご注意※
今回は官能描写が多いです。苦手な方はご遠慮ください。

目黒のバーで飲んでキスしたあの夜の後。

言った通り西田部長はタクシーで私のマンションの前まで送ってくれた後、そのまま帰っていった。

その後、一人で過ごした週末は西田部長のことで頭がいっぱいだった。
あのキスを思い出す度に熱くなる。

会社ではフロアが違うため余程の事がなければ見かけない。
しかし必ず顔を合わせる機会がある。そう、部長会だ。
私は議事録を取るために会議に参加する。姿を見るのはあの夜以来だったから、いつも以上に緊張した。

会議中はさすがに目を合わせないようにしたが、終了後にほんの僅かに視線を絡ませた。その瞬間に身体が溶けてしまいそうになって、平静を保つのが大変だった。

別フロアのトイレに駆け込み、個室からこっそりメッセージを打つ。

また2人で会いたいです

すると程なくして返信が来る。

僕もそう思ってた

嬉しさと優越感で弾けそうになる。
他の誰も、もちろん環や志帆だって知らない、私たちだけの秘密。

トイレを出て自部署のフロアに戻ろうとした時、向こうからやって来たのはなんと西田部長だった。
驚いて声を挙げそうになる。向こうも同じようなリアクションだった。

たまたま周囲に人は誰もいない。

彼は私の腕をひっぱり、非常階段へ通じる扉を開けた。
重たい音を立てて扉が閉まると同時に、彼は私の顔を両手で挟んで激しくキスをした。
舌の絡まる音が響く。
やがて私の左膝の裏に腕を差し入れ、下半身を押し付けてくる。

見つめ合った時に彼は「冗談ですよ」と言って笑った後、

「仕事が終わったら家に行く」

耳元でそう囁き、そのまま非常階段を降りて行った。

「冗談ばっかり…」

熱くなる身体を抑えるためにしばらく立ち尽くし、私のことは遊びなんだろうなと思う。

でもそれでも止められない。
私は既に心も身体も暴走している。

* * *

定時で上がり部屋に着いた頃、西田部長からメッセージが入った。

もう家にいる?

『お疲れ様です。はい、今帰ってきました』

今から向かっていい?

鼓動が跳ね上がる。

『はい、大丈夫です。どれくらいで着きますか?』

30分もかからないと思う

『わかりました』

30分…。

急いで顔を洗い肌を整え、眉毛だけ軽く引き直した。首元や脇などはシートで汗と油分を拭った。
髪はオイルを少しだけつけてブラシを入れる。胸元の毛先と前髪は特に丁寧に。

そしてコットンのシャツワンピース…ラフだけど外に出ても大丈夫な服に着替える。

部屋は常に片付けているけれど、コロコロをかけて落ちた髪などを取っておく。

あ、一応お客さんだから、お茶の用意もしておいた方がいいか。アールグレイと白桃凍頂烏龍茶とジャスミン茶、どれがいいんだろう…。

そうこうしているとあと5分になった。
最も落ち着かない時間だと思っていたら、メッセージが入る。

着いた。もう行っても平気?

一気に緊張が走る。

『はい、大丈夫です』

程なくしてオートロックのインターホンが鳴り、それを解除するとまた少しして部屋のインターホンが鳴る。

ドアを開けると外からの風に乗って『ENDYMION』が香り、身体の芯がギュッと締め付けられる。

彼は部屋着姿の私を見てほんの少し目を見開き「お疲れ」と言った。
会社では見せない、柔らかな表情をしたかと思うと。

彼の後ろで玄関のドアが閉まるなり、抱き締められる。

「会いたかった」

そして彼は心も身体も溶けてしまいそうな言葉を耳元で囁く。

「私もです」

彼の背中に腕を回してそう応えると、抱き締める腕に力が入り吐息と共に微かな声が漏れる。

額をぶつけられ、口づけを交わす。

「お部屋…入ってください」
「うん…」

そう言ってもしばらく彼は抱き締めた腕を緩めず、しばらくしてようやく解いた。

ローテーブルの前に彼は座り、私はキッチンでお茶を淹れる。結局アールグレイにした。

「西田部長、まさかこんなに早い時間になるとは思ってなかったです」
「うん」

彼の前にお茶を出す。

「紅茶で良かったですか?」
「うん、ありがとう…」

カップをしばらく見つめた後、アールグレイを一口、二口飲むと彼は私を見つめた。こんなに切ない顔があるかというくらいの顔で。

「何ですか? 何かあったんですか?」
「こっち、来て」

と、左手で自分の横をポンポンと叩く。
「はい」と返事をして彼の隣に寄ると、すぐ腕を腰に回して抱き寄せられた。

「あんなメッセージのやり取りした後に遭遇して、会社でキスなんかしちゃったら、どうしようもなくなって、真っ先に会社を出てきた」

身体の芯が熱くなる。

「仕事中にそんなこと考えているんですか? だめですよ」
「松澤さんだって考えていただろう? 仕事中なのに "2人で会いたい" なんてメッセージ送ってきたんだから」

確かにその通りなのだが。

彼は右手を私の頬に当てて言った。

「目を閉じないでいて」

言われたままにしていると、顔を近づけて来た。

「目を開けたままキスするつもりですか?」
「いいから」

そのまま唇が触れる。アールグレイの爽やかな香りが飛び込んでくる。

初めてのキスも確か目を開けたままだった。そんなキスをするなんて、そしてあの目黒のバーでの流れを思えば…相当女の人に慣れているのだろうなと思う。

耐えきれず目を閉じると「閉じないで」と言う。そうしてしばらく見つめ合ったまま、長いこと舌を絡ませた。
淫靡な音が響き渡り、脳が溶けるかと思った。

「ベッドに行く?」

私は黙って頷いた。抱き上げられ、ゆっくりとベッドの上に下ろされる。
両腕を彼の背中に回し、髪を後ろからすくい、くしゃくしゃとかき回した。
彼は額をぶつけ、ふふっと笑う。

「2人の時は小桃李ことりって呼んでいい?」
「…いいですよ」

彼は微笑んで「赤くなってる。かわいいな」と言い、同じように私の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「名前で呼びたいなって思ってた」
「そうなんですか?」
「だってかわいすぎるじゃないか。小桃李ことりだなんて」
「…好きにしてください」
「小桃李も僕のこと、名前で呼んで。響介って」
「えっ…そ、そんな急に呼び方、変えられないですよ…目上の方ですし…」
「じゃあ徐々にでいいから」

彼は私の服を脱がし自分のシャツのボタンも外した。
彼の美しくなめらかな肌が顕になる。いつかシャツの上から触ったお腹は、思った通りに引き締まっていた。

細身のスーツからでもその肉付きの良さは何となく感じていたが、思った以上に逞しく美しい身体をしていた。

その首筋から胸に指を滑らせると、彼はくすぐったそうに笑った。
私はすぐに彼の肌触りが好きになり、何度も撫でた。

彼が密着してきた時に、その滑らかな肌に舌を這わせた。
『ENDYMION』の、甘くてスモーキーな味がする。

「小桃李の唇と舌、気持ち良すぎする」

彼の眉間に皺が寄る。感じてくれているんだとわかる。

「西田部長の唇と舌も、すごく気持ちがいいです」
「響介」
「えっ?」
「名前で呼ぶ練習して。職場での呼び方は嫌だな」
「…きょ、響介…さん」

彼はニッコリ微笑んだ。

そうして既に熟しきった私の中にゆっくりと静かに身体を沈めると、またもや “目を逸らさないで“ としばらくじっと私の目を見つめる。

ただ見つめ合う。
色々耐え難いな、と思う。

「見つめてるだけなのに…小桃李の中…すごい…」

そう言って彼は笑い、もう我慢できないと言って動き出した。
私の身体は歓喜の叫び声をあげた。

やがて大きなうねりが訪れると、彼は私の上に倒れ込む。
汗を滲ませた肌同士が張り付いても、全く不快に思わない。むしろ、吸い付くようだった。

セックスがこんなに気持ちがいいだなんて、今までの私、何だったのかと思うほど、良かった。

普通の恋ではなかったからかもしれないけれど。




#13へつづく
※次回も引き続き官能的シーンありますのでご了承ください…

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