【連載】運命の扉 宿命の旋律 #40
Lullaby - 子守唄 -
YouTubeのリンクを遼太郎に送った後、動画の再生回数が増えていないので、観てくれていないのだと萌花は思った。
もちろん、メールに返信が来ることもなかった。
“会社の偉い人相手に、いけないことしちゃったかな…”
業務と関係のない内容のメールをインターンシップ生が送ったことは良くないことだったかもしれない、後で怒られるかもしれない、と思った。
でも、どうしたら観てくれるだろう。直接話す事はできないだろうか。
しかしあの部署は…あの部署以外もそうかもしれないが、役職者への接触が難しい。
関係のない部署のインターンシップ生ともなれば当たり前かもしれないが。
そうこうしている間に8月も半ばを過ぎ、萌花のインターンシップも終盤が近づいてきた。
稜央が地元に戻るまであと1ヶ月あまり。
そろそろどう具体的に接触しようか、稜央は真剣に考え始めた。それを知り、萌花も焦り始める。
「稜央くんはどうやって野島さんと会おうとしてるの? 私が仲介した方がいい?」
すると稜央は首を横に振った。
「帰宅のタイミングも何度かチェックしているから、自分一人で行く。萌花はそばにいない方がいい」
「いない方がいいって…どういうこと?」
「まぁ…あんまり見せたくない、そういうところ」
稜央の表情が一変し鋭い目つきになったので、萌花は驚き不安になった。
確かに20年もの間その存在を知ること無く、何の前触れも無く現れ「息子だ」と名乗る場面に第三者がいるのもおかしいか、と萌花は思った。
「どんな話…するつもりなの?」
「話…話になるのかわからないけど」
稜央は突然、フッと笑みを浮かべる。
「思い知らせてやるんだ」
「思い知らせる?」
「当たり前じゃないか。俺も母さんもアイツのせいで…今までどんな思いをしてきたと思ってるんだ」
今度はみるみるうちに稜央の表情に怒りが浮かぶ。
萌花は慄いた。
「それって…」
萌花が怯えたような表情を見せたので、稜央は優しく微笑み、彼女の髪を撫でた。
「もうこの先は萌花は関わらなくていい。後は自分ひとりでやる。でも萌花がいなかったらこんなに早くたどり着けなかったと思う。本当に感謝してるんだ。嫌な思いもたくさんさせたし…身体に傷まで…」
そして萌花を抱き締める。
「萌花がいなかったら…俺は萌花なしでは…」
「稜央くん…」
萌花はこの計画がずっと父親に対する恨み、復讐の元に実行されていることを知りショックを受けた。
稜央が根底に抱えていた暗く重たい気持ちに気づけなかったことがショックだった。
稜央と半同棲のように過ごした甘い時間の裏で、稜央は父親に "思い知らせる" ために恨みを募らせていたと思うと…。
じゃあどうしてあの時ー。
会社の近くのカフェから初めて父親の姿を見た時、どうして稜央は涙を流したのだろうと思う。
あの時の稜央には恨みだとか怒りだとか、そんな感情は一切感じられなかった。
まさに "子供が流す涙" だと思った。純粋な感情の。
「稜央くん…野島さんに何をしようとしているの?」
「萌花はもう気にしなくていい」
萌花は思い出す。
自分を襲った杉崎に対する稜央の "復讐" の事件を。
「怖いこと、しないよね?」
「怖いこと?」
稜央も同じ事件のことを思い出したようだ。
「しないよ」
たぶん、という言葉は言わなかった。
#41へつづく