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母殺し泥地獄
(約3,300文字です)
9月後半、関東圏のキャンプ場に2泊する計画をたてたのだが、、、
微妙な雨予報。
「そんなに降らないんじゃない?」
地獄の暑さから逃げ出したい一心で、
私は、なんの根拠もなくそう主張した。
そうしてキャンプを強行したのだが、、、
別の地獄が待っていた。
その公営のこじんまりしたキャンプ場は、ほとんどが草サイトである。
しかし、私たちの区画は日陰な為か、土サイトとなっていた。
サイトナンバー4番。
今から思えば不吉な数字、、、。
着いて早々、うっすらと小雨が降りだしたが、なんと夕方には私の願いを聞き入れたかのように止んだ。
思いがけず美しい夕暮れ。
桜の木々の下、ハラハラと落ちる葉に秋の気配も感じられた。
来てよかった〜
しかし、ホッとしたのも束の間、黒く重たい雲が遠くの空に見え、若干の不安を覚える。
この時、既に天気予報は大きく変わっていたのだ。
そして、本当にぽつぽつと無情の雨が本気モードで降ってきた。
そんな中、私はトイレに行きたくなった。
子供に声をかけたが、夫がいつの間にか買い込んでいた特大シュークリームをほおばっていて、ガン無視された。
トイレは、サイトを下ってすぐのところにある。
私は、長靴に履き替えるのが面倒でゴム製サンダルをつっかけたまま、最短コース「土むき出し斜面」を下って行った。
行きは慎重に降りたのだが、帰りは気が緩んだ。
わっ!
盛大に、こけた。
片方のサンダルがすっ飛び、大事な「無印」の靴下は完璧に泥コーティングされてしまった。
靴下のロスは、実に痛い。
子供の靴下は、日数×3足といつも超余分に荷物に突っ込む。
自分の分は、大人は靴下を汚さないものよ、フフフと余裕をこいて、
きっちり日数分しか持ってきていない。
スマートなキャンパーは、荷物もコンパクトなのだ。
、、、そして、キャンプでは時として、瞬時の判断が求められる。
一つ間違えれば、あとあとまで確実に響く!
(諸々失います、、、)
そこで、私は一つの打開策を検討してみた。
テントに戻ったら、明日履く予定の靴下を履いてしまう。
そして、ドロッドロの靴下を洗い、乾かす。
しかし、私は、あることに気付いた。
、、、あれがない、、、
日々、泥との戦いに明け暮れる母たちの強い味方
ウタマロ石鹸!
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、、、持ってきてなかった。
関東ローム層のペットリした赤土を、食器用洗剤で落とせる自信がない。
クソ〜
仕方なく、泥コーティングされた靴下の方だけ脱いだ。
片足だけ裸足。
キャンプ続行。
お洒落キャンパーからまた遠ざかってしまったが、もうすぐ止むという天気予報を信じて空を拝んだ。
そんな願いも虚しく、雨はますます激しく、
無情にも一晩中降り続けたのだった。
朝方、雨音が止んだ。
ホッとした私は、緊急にトイレに行きたくなった。
子供も、今回は一緒に行くと言う。
一つ間違えれば、あとあとまで確実に響く!
この時、致命的なミスを私は繰り出してしまう。
新しい靴下を履くと、またしてもゴム製サンダルをチャッとつっかけ、テントから踏み出してしまったのだ。
辺りは一面、見事な泥の海、、、
満遍なくトッピングされた濡れ落ち葉と渾然一体の仕上がりであった。
しかし、一刻も早くと焦っていた私は、ゴム底でもグリップの効く
安全だけど遠回りのアスファルト道ではなく
濡れた落ち葉で覆われた「丸太の階段」という
今思えば
最短だけど死ぬよ
というルートを選択してしまった。
子供も連れて行くので、慎重を期して先に私が降り始める。
滑るから気をつけるのよー!
と、肩越しに怒鳴った直後、
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ
濡れ落ち葉に滑り、私は落ちた。
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着地点は洗い場のコンクリート床。
肩と顔面を強打し、あまりの痛さに呻く。
痛いぃぃぃぃぃ
子供は母親の一人コントのような惨劇を見せつけられショックで言葉を失っていたが、それはそれは慎重に階段を降りてきた。
「マ、ママ、大丈夫?
、、、もうっ!気をつけてね」
8歳児から労りとご注意を受ける中、夫が、何事かと飛んできた。
全身泥まみれで顔に傷を負った伴侶の姿に驚愕していたが、早々に素敵なキャンプ場の朝ご飯は諦め、温泉に行こうと提案してくれた。
その後、トイレの鏡でこわごわと確認してみたが、頬をちょっと切ったのと擦り傷程度だった。
凶状持ちのような傷でもないので絆創膏は貼らず、マスクで隠れる範囲でもあり、そのままにしておいた。
若干ヒリヒリするのだが、もうそんな事はどうでも良かった。
この時点で、またしても新しく履いた靴下、レギンス、レインコート、そして愛用の「キャンプ専用スカート」にまで、フル泥コーティングしてしまった。
しかも、昨日より水分かなり多めで。
ちょっと干したくらいでは乾きそうにない。
早々にその日の靴下を失うというミスに加えて、着替えこそほぼ持っていない事実に私は焦っていた。
あるのは薄手のワンピースのみ。でも、それは帰りに必ず寄る道の駅やサービスエリアの為の服、、、。
ただでさえ、撤収後、髪は整(ととのう)君並みに広がり、どすっぴんという余裕のない状態だ。
山から降りてきました〜感を、なんとか抑える為のこざっぱりとした衣装なのだ。
まだ、あと一泊ある。
エプロンをしても、火の粉や、煤や灰、洗い場の水飛沫などに耐えられるような代物ではない。
丈夫な「キャンプ専用スカート」一丁でクールにやり抜く、というスタイルが脆くも崩れ去り、私は若干パニックになっていた。
どうしよう、靴下どころか着る物もない、、、
とにかく街へ向おう。
すっかり意気消沈し、泥女と化した私は、車に乗り込もうとして気がついた。
このままでは、シートにも泥が!
一瞬迷ったが、仕方ない。
私はおもむろにスカートを裾から茶巾絞りの要領でひっくり返し、余った布を手でしっかり握りしめた。
泥化粧で裸足にサンダル、カボチャ型マイクロミニの謎の部族、、、。
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お洒落キャンパーどころか、どんどんオバキャン度高めな姿へと変貌を遂げていく中、絶対に絶対に検問などに引っかかってくれるなよ、と心の中で強く願った。
今、身体検査にだけは死んでも遭いたくない。
子供の手前、着替えがない、靴下がない事は言い出せずにいた。
日頃から計画性を持て!と私にあれほど言われているのだ。
、、、反撃が怖い。
後部座席で、じっと息を潜めるしかなかった。
まずはコンビニで、割高でチョイスのしようもない靴下を買うしかないだろう。
ヒートテックシャツとレギンスの替えはあるが、それだけだと、、。
、、、全身タイツ、、、
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泥まみれなうえに空腹だった。
朝っぱらから階段落ちを披露してしまったこともあり、私は、血迷った煩悶を繰り返していた。
温泉が開くまでは少し時間があった。
その間に前日に見かけたワークマンに行こうと夫が言い出した。
フレームテックという焚き火対応のウェアを見ておきたいという。
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基本的にチャレンジ精神に乏しい私は、普段、予定外の行動をとりたくないのだが、この時ばかりは小躍りして喜んだ。
やったーワークマンだ!
しかも、プラスの方。
レディースがある!
こうして、問題はあっけなく解決した。
そう、安易に金銭で、既製品を購入して、、、。
ネイキッドサバイバーのように、
自然から必要なものを作り、
生き抜く力を養いたい!
というのもキャンプを始めた理由の一つなのだが、、、。
若干モヤモヤしながらも、ワークマンの靴下の安さと豊富なデザインにあっけなくヒャッホー!とお買い物モードに入る。
そして無事、丈夫なスカートも購入でき、いざ温泉へ、と向かった。
泥を洗い流し、気持ちもさっぱりと熱いお湯に浸かると、
生きてて良かった〜
と心の底から思った。
しかし、、、
キャンプ場に戻ってからも泥地獄が続行することに、この時点ではまだ気づいていなかった。
お初の貴重なスカートを死守するあまり、子供の行動を見張っていなかったのだ。
奴は、例の土むき出し斜面を
滑り台がわりに
エンジョイしていたのだ、、、。
運動靴、靴下、パンツ、Tシャツ、、、(ひどい順に)
すべて、我が家史上かつてないほど
ドロッドロ~
泥まみれーーー!!!
その惨状に、私は絶叫した。
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帰宅後、ウタマロ石鹸まるまる1個を費やし、ただただひたすら洗いまくり、、、
こうして、泥地獄は幕を閉じたのである。
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