恋愛感情がない? 「アセクシャル」とは何か
「LGBT内でも少数派の『アセクシャル』について解説してほしい」という、マイナビウーマン編集部からの依頼に、私は「おや?」と首を傾げた。
「セクシャル・マイノリティ」と「LGBT」がイコールだと捉えているのだろうか?
今回は、多くの人がきちんと理解できていない「アセクシャル」というものについて解説してみたいと思う。
アセクシャル(Aセクシャル)とは何か
アセクシャル(Aセクシャル)は、性的少数派、つまりセクシャル・マイノリティに分類される。
もともとは「他者に性的欲求を持たない人」を指すために生まれた言葉である。ただし、日本においてはさらに「恋愛感情」を含めて「誰に対しても恋愛感情や性的欲求を感じない人」を指す言葉である。
以前マイナビウーマンで『「周囲にLGBTがいない」のは、あなたに原因がある #となりのLGBT 』という記事で簡単に説明した、「LGBT」。
実は、現在「LGBTQQIAAPPO2S」まで表記が追加されてる。
これについて深く説明すると長ーーーーーい話になるので今回は割愛するが、毎回「LGBTQQIAAPPO2S」と表記すると混乱をきたすので、最近では「LGBTQs」や「LGBTQ+」と表記することが多いようだ。
この 「LGBTQQIAAPPO2S」内の「A」表記には、「アセクシャル」が含まれている。
つまり、アセクシャルとはLGBTに含まれるというよりも、セクシャル・マイノリティとして同列の存在なのだ。
■アセクシャル(Aセクシャル)の意味、定義
「LGBT」を「セクシャル・マイノリティ」という意味で捉えるとすれば、アセクシャルもLGBTのひとつであると言っていいだろう。
そして、日本において「恋愛」とは「性的行為を含む行動である」と仮定すると、アセクシャルの人は「恋愛をしない人」ということになる。
では、「アセクシャル」と「ノンセクシャル」はどうちがうのだろうか?
■「アセクシャル」と「ノンセクシャル」のちがい
日本では「アセクシャル」は「他者に性的欲求も恋愛感情も抱かない人」を指し、「ノンセクシャル」は「他者に性的欲求を抱かない人」を指している。
この点、恋愛感情の有無で、両者を分けていることがわかる。
しかしひと口に「ノンセクシャル」といっても性に対する考え方はさまざまで、生まれつき性的な行為が苦手な人、過去にトラウマがある人、下ネタNGの人、自慰行為はする人、などなど、どのセクシャリティにもいえることだが、多種多様だ。
なぜ私がしつこく「日本では」「日本において」と前置きしているかというと、実は英語圏において、「アセクシャル」も「ノンセクシャル」も、まったく同じ意味を指す言葉だからだ。
英語圏ではどちらも「性的な接触をしない人」を指す。恋愛はするがセックスをしない人は、「アセクシャル」とも「ノンセクシャル」とも呼ばれる。
そして、「セックスの有無は関係なく、恋愛はしない」人のことを「アロマンス、エイロマンス(Aロマンス)」と呼ぶ。恋愛もセックスもしない人のことを「アロマンス・アセクシャル」と呼ぶのだ。
しかしここは日本。日本でどのようにこのふたつが認識されてきたかということに重きを置くと「アセクシャル」は「恋もしなけりゃセックスもしない」、「ノンセクシャル」は「恋はするけどセックスはしない」となる。
■自己診断できるもの? アセクシャルの特徴
日本人は自己診断ものが好きだ(唐突な決めつけ)。
今回の寄稿、「アセクシャルの特徴をいくつか挙げながら、解説してほしい」との依頼が含まれていたわけだが、私は頭を抱えている。自分がハイパー恋愛体質な上にセックス大好きゴリラであるため、「誰に対しても恋愛感情も性的欲求も抱かない」「恋愛したくてもできない」という状態がイマイチ想像できないのだ。
「私アセクシャルなんだよね~」とカミングアウトされたところで「へ~そうなんだ~」と、特に突っ込んで聞いてみたこともない。
そもそも恋愛事情や他人の床事情なんてプライベートなことを「恋バナだから」と、ズケズケ聞いていいことでもないと思っている。また、アセクシャルなら「恋バナ」を話題にしてもつまらないかなと、じっくりとアセクシャルの人とセクシャリティについて話したことがないのだ。
よって、外側から見たアセクシャルの人の特徴を挙げよといわれても無理な話である。
そもそも、アセクシャルかどうかは外側からは区別がつかない。「アセクシャルの人」と、「恋愛したいけど人を好きになるのに時間がかかる人」は非常に似ているからだ。
「本人が自分のことをどう認識しているかどうか」をカミングアウトされることでもなければ、外側からはちがいがわからないと思う。
では本人がどう、「自分はアセクシャルである」と認識するかというと……
・イマイチ恋バナで盛り上がれない
・一度も人を好きになったことがない
・告白されても、付き合ってみようと思えない and/or めんどくさい
・恋愛の意義が理解できない
・恋愛するより先にやりたいことが100億個ある
・デートで3万円使うなら、300回ガチャを回したい
の内2つ以上当てはまったら、疑ってみてほしい。
当事者ではない私が言うことなので、ちょっとしたネタとして許容していただければ、幸いだ。
恋愛できない。アセクシャルが抱く悩み
2019年現在で放映されているテレビドラマですら「32歳にもなって、一度も恋したことないとかありえんてぃの極み」とか言ってしまうほどの、恋愛至上主義国ニッポンであるからして、アセクシャルの存在がもっと認知されてくれたら、先程のセリフがどのくらい差別的であるかわかるはずなのだが……。
■「いつか出会うから、大丈夫!」
「恋愛(セックス)したい相手にまだ出会ってないだけで、いつか出会えるから大丈夫だよ!」と言われたことはないだろうか。
言われた側にしてみれば、余計なお世話MAXだが、言っている本人は、相手がアセクシャルかもしれないという発想すらないもんだから、不安を払拭してあげているつもりなのだろう。
実際、本人も「今はそう思える人に出会ってないだけなんだろうな」と思っていて、自分のセクシャリティに気付いておらず「なんで私はみんなと同じように恋愛できないんだろう」と孤独に悩みを抱えている場合も多い。
そんなときは、あまり考え込まずに「あなたはそういう考えなんですね~」とすべてに対してbot返ししよう(by アルテイシアさん)。
これのタチが悪い部分は、たとえばレズビアンの女性に「まだイイ男に出会ってないから、女と付き合ってるんでしょ?」というのは濃いめの差別だとパッとわかるのに、これがアセクシャル相手だと、途端に「慰めてあげている」感でごまかされてしまうところだ。
本当は恋愛したいんでしょ? が前提で言われても、アセクシャル的には不愉快なのではないだろうか。
早く世間に、アセクシャルの存在が広く認知されてほしい。
■世間体の重圧が辛い
今や小学生でも恋愛しているこの世界で「恋愛しなくちゃいけない」ような重圧は強いように思う。
あっちを見てもカップル、雑誌を見てもモテテクセックス特集、テレビを見てもラブコメ。恋愛して、結婚して、子どもを作って、新しい家族を作ることが世間的にも求められ、親にも「あんたいつになったら結婚するのよ」と言われる。「老後どうすんの?」と。
しかし、ご心配なかれ。
この世は、シングルでいれば「恋人は?」。恋人がいれば「結婚は?」。結婚していれば「子どもは?」。子どもが生まれれば「2人目は?」。子どもが巣立てば「お子さんのご結婚は?」と、エンドレスに何か言われ続けるようにできている。
自分に正直に、やりたくないことはしないほうが、絶対に幸せだ。
ともかく、自分のセクシャリティに関わらず、ステレオタイプの価値観だけでとやかく言ってくる人とは、物理的な距離を置いたほうがいいかもしれない。
アセクシャルの有名人は? コミュニティはあるの?
前段のようなことに悩んだとき、ほしいのは理解者や共感だと思う。
アセクシャルだとカミングアウトしている有名人や、アセクシャルの人にもオススメなコミュニティを紹介したい。
■アセクシャルの有名人
アセクシャルの有名人といえば、LGBT YouTuberとして活躍する、性性堂堂のメンバーであるなかけんさん。(参考:LGBT YouTuberまとめ10選【日本にもこんなにたくさん!】)
アセクシュアルとして自身の恋愛観や考え方について多くの動画を投稿している。町田市議会議員の東友美さんも、2018年9月3日、アセクシュアルであることをカミングアウトしている。
しかし、テレビなどの大きなメディアでアセクシャルであることを公言している有名人は、私はまだ知らない。
以前、社会学者の某氏(最近は、テレビでご活躍されている)が「恋人と『そういうこと』をしなさすぎてフラれる。汚いと思っちゃう」と発言し、出演者に「異星人だ」と揶揄されたことがある。某氏は、生まれたときからずっとそうだと言っていて、私はそのエピソードを聞いて「もしかするとアセクシャル、もしくはノンセクシャルの可能性があるのでは」と思った。
しかし、アセクシャルといったセクシャリティの存在を知らない人から見ると、彼らは単なる「潔癖症」に見える可能性が高い。本人も気付いていないかもしれないし、本当に潔癖症なのかもしれない。それは、当事者のみ知り得ることで、他人が判断できることではない。
■アセクシャルのコミュニティ
NPO法人にじいろ学校では、アセクシャル向けの交流会なども行なっていて、孤独に抱え込まずとも、同じセクシャリティ同士で交流ができるコミュニティがある。
また、アセクシャルだとしても結婚したい人はすることができる。
自覚があるにせよないにせよ、最近ではアセクシャル、ノンセクシャルでも結婚はしたいという人向けに、友情結婚を紹介する相談所なども登場している。(参考:友情結婚相談所カラーズ)
アセクシャルであることで孤独を感じたり、悩みを抱えたりする場合は、ぜひこういったコミュニティの門をたたいてみてほしい。
セクシャル・マイノリティの中でもマイノリティなアセクシャルの今後
LGBT界隈でもっとも声高な主張は「恋愛の自由」だ。
恋愛対象が誰であれ、好きになる対象には自由があって、そこにはヘテロセクシャルと同じ価値があり、尊重されるべき権利がある、と。
そこでは「恋愛しない」自由は忘れられがちだ。
人を好きになるも、ならないも、個人の自由であるはずなのに、なぜか「人が人を好きになること」が前提で話が進んでいる気がする。もしくは、「人が何か、二次元的なものや無機物を『好きになる』前提」があるように思える。
自分以外の存在を、恋愛対象として認識しない。もしかすると、こういったことを理解できない人の方が多いかもしれない。
ただ、私が常々伝えていきたいと思っているのは「理解できなくとも、受容する」ことの大切さだ。
どのようなセクシャリティでも、他人を100%理解することは不可能だ。しかし、それをただありのまま受け入れることはできると思う。
受け入れるために、100%理解する必要はない。
「アセクシャル」というセクシャリティが、名前だけでも広く認知されれば、自分の状態が腑に落ちる人も増えるだろうし、当事者以外も「そういうセクシャリティがあるんだな」と、そのことについて考えるきっかけになるだろうと思う。
そのことに、少しでも貢献することができれば、幸いだ。
(豆林檎)
参考・引用文献:
「LGBT」はもう古い? 「LGBTQQIAAPPO2S」って何だ | デイリー新潮
恋愛はしない?アセクシュアル(エイセクシュアル)って何? | Job RAINBOW for LGBTQ+
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