二回戦で日本がトップになる?? 島田太郎、尾原和啓『スケールフリーネットワーク』 動画「名著を読み解く」#5
DXを握る鍵がスケールフリーネットワーク
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がここ1,2年あたりビジネス雑誌やニュースで踊るようになった。DXとは、「デジタルによる技術改革」のことを指すが、単にコロナ禍でハンコを廃止するといったデジタル手続きを意味するのではなく、もっとマクロな視野で抜本的な改革を意味する言葉だ。日本はDXにおいて、海外に惨敗しているのが実情である。
だが、これからの二回線においては、DXにおいては「スケールフリーネットワーク」が鍵を握るのだという。それを謳ったのが、島田太郎、尾原和啓『スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX』(日系BP)だ。日本の「ものづくり」の資産と「スケールフリーネットワーク」を組み合わせれば、「GAFAに代わって、新たに世界の覇権を握ることも決して夢物語ではない」のだというのだ。
結論から言えば、DXが起きる場とは、遠くにあるもの同士が自発的につながる場であるという。そのような場を提供する事が大事で、そのためには、製品に関わる技術をオープンにして、サービスを自由に接続できるようにすることが求められるというのだ。
紹介動画はこちら。
スケールフリーネットワークとは、空港の路線図をイメージするとわかりやすい。遠くに離れているいくつもの空港が飛行機で何通りにも結ばれる。すると、羽田空港や成田空港のように巨大なハブ空港が、地方の小さい空港と接続されていく。ハブ空港はさらに多くの路線を接続して巨大化し、路線格差も生まれていく。これがスケールフリーネットワークでのモデリングだ。
一見すると遠くにあって関係ないように見える別々の要素が組み合わさることによって、新しいアイデアが生まれていく。これがイノベーションを生むのだ。
スケールフリーネットワークのようなイノベーションを起こすためには、日本では、アセットなどの仕様を公開し、誰でも接続可能にすることを筆者の島田太郎は提案する。自社だけで囲い込んではネットワークは生まれず、アセットを公開することで新たな価値を生むというのである。
日本は選択と集中進まなかった分、企業の物作りの技術や製品開発のタネがまだまだ埋もれている。それらを宝の持ち腐れにするのではなく、オープンにすることで、仲間や技術が集まり、そこからさらに新しいアイデアや要素を組み合わせてイノベーションを起こすというのだ。
これらの考えを元に、タニタの谷田千里、人工知能研究のトップランナーで東京大学の松尾豊教授、東芝代表執行役社長CEO車谷暢昭、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄といった多士済々のメンバーとの対談が収録さている。
一例として、スマートレシートが挙げられるが・・・
スケールフリーネットワークの一例として紹介されているのが、スマートレシートだ。レシートをデジタルに変えるだけで、年間の紙の消費量を5.4万トンA4のコピー用紙を135億枚分もカットできるという。確かにこれはすごいことであろう。
だが、あっと驚くような、それこそiPhoneが世に登場したときのような画期的なイノベーションを呼び起こすのかといえば、どうだろうか?
おそらく、もっとすごいの余地やポテンシャルが期待できるアイデアの芽は他にもいろいろあるはずだ。問題は、その芽を花開くために、イノベーションが発生するスケールフリーネットワークのプラットフォームをどう構築していくかにかかっている。技術はあっても、人材や技術、データを活かしてビジネス化する人がいなかったことは、東芝の車谷社長も本書で認めている。
どのように場を作るか?
技術やデータはあっても、活かし方がわからなかったり、人材やアイデアの欠如という問題は日本全般にも当てはまりそうだ。人や技術を活かすには、単に技術メーカーだけで開発しては駄目で、外部の、全く関係ないところから人を引っ張ってきたり、突拍子もないアイデアを出し合う場を設けるなど、工夫も必要になってくるだろう。
入山章栄は次のように語る。
このような場を作るためには、従来ならば渋って拒否することでも、思い切ってGOサインを出す柔軟な決断力も必要になってくる。マクロな視点を持った、全体性を見通すことができる異分野からの人材をファシリテーターとして起用するなど、新しいポジショニングも求められるだろう。
つまりは人材の適材適所と、スティーブ・ジョブズのような「タレント」の誕生が望まれる。タレントの組織構造については、酒井崇男『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 』(講談社現代新書)が大いに参考になる。こちらも読むと、より理解と知識が深まるので、ぜひ合わせて読んで欲しい。