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安定ゆえに不安定、不安定ゆえに安定。~身体と呼吸の観察から~

生きていく中で最も大切なことの一つは「呼吸を続けてゆくこと」であると思います。呼吸が止まった時間がある限界を超えてしまえば、たとえ呼吸を取り戻したとしても、身体には深刻な影響が残ってしまいます。

ヨガを続けていてよかったと思うことの一つは、呼吸の大切さを身をもって知ることです。

たとえば、デスクワークなどで同じ姿勢が続くと身体が固まってしまい身体が思うように動かないとき。そのようなときに頑張って身体を伸ばそうとすると、身体が力んで、緊張で呼吸が止まってしまうことがあります。

焦らず気張らずじっくりと、「そんなときもあるさ」ぐらいの心持ちで。ゆっくりとじんわりと呼吸が止まらないようにしながら伸ばしたほうが、身体が緩んで伸びが生まれてゆく実感があります。「固まっている部分に呼吸を送り届けてあげてください」というインストラクターの方のリードも支えになっています。

あるいは、片足立ちでバランスを取ることもあるわけですが、「ガチッ!」と身体を固めてしまうとバランスを取ることが難しく、むしろ適度な余白・余裕がある中で「ゆらぎ」を最小限の幅の中に収め続けようとするほうが安定するように感じるのです。

呼吸が止まっている状態は入りも出もないので文字通り「止」による安定、呼吸が続いている状態は入りと出が調和している「流」による安定。

自然科学ではバランスが取れている状態を「平衡状態」、バランスが取れていない状態を「非平衡状態」と表現しますが、非平衡による安定、言い換えれば「変化し続けるからこそ安定する」ということが長い目でみれば健全なのではないかと思えてくるのです。

たとえば、何をしたらよいのか分からず漠然とした不安があるという時も、まずは何か一歩を踏み出してみる、行動してみることで視界が開けて気持ちが落ち着いてくることもあるものです。

これは、先日綴った「希望のつくり方」にも通じるように思いました。

Hope is a Wish for Something to Come True by Action.」

希望には指向性があり、(あまり望ましくない)平衡状態を非平衡へと変化させて、新しい状態に遷移する推進力となる。そのように捉えることもできそうです。「ゆらぎ」を味方につける、ということ。

物理学者や化学者、生物学者たちは、秩序が生まれる際の二つの代表的な形式になれ親しんでいる。その一つは、低いエネルギーをもつ平衡状態である。なじみが深いのは、鉢の中で底に向かって転がり、多少ふらついたのちに停止するボールの例である。ボールはその位置エネルギーが最小となる場所で停止する。重力のために生じた運動エネルギーは摩擦によって熱として散逸する。ボールがいったん鉢の底、つまり平衡位置に達すると、その空間的な秩序を維持するのにそれ以上のエネルギーを必要としない。

スチュアート=カウフマン『自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則』

秩序が生まれる際の二番目の形式では、秩序化された構造を維持するために、質量あるいはエネルギー、またはその両方の供給源が必要となる。鉢の中のボールとは異なり、これらは非平衡状態における構造である。よく知られている例としては浴槽の中の渦巻きがある。いちど形成されると、水が連続的に供給され、排水管が開いたままになっていれば、この非平衡の渦は長い間安定に存在できる。このように維持された非平衡の構造の例のなかで、最も驚くべきものが木星の大赤斑であろう。大赤斑は、あの巨大な惑星の大気の上層部にできた渦巻きであることがわかっている。

スチュアート=カウフマン『自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則』

大赤斑のような非平衡状態における秩序は、物質とエネルギーが継続的に散逸することによって維持される。(中略)しかし散逸構造では、系の物質とエネルギーの流動が、秩序を生み出す推進力となっている。散逸構造が興味を引いたもう一つの理由は、自由な生活を営む生物システムが散逸構造になっており、物質代謝を行なう複雑な「渦巻き」であると認識されている点にある。

スチュアート=カウフマン『自己組織化と進化の論理 宇宙を貫く複雑系の法則』

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