「スケールフリー・フラクタル・ネットワーク」が社会的学習を促す
今日は『ソーシャル物理学 - 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(著:アレックス・ペントランド)より「アイデアの流れの速さと群衆の英知」を読みました。
情報やアイデアの流れを変えることで、個人個人の相互学習(社会的学習)を促し、集団としてより望ましい判断・行動を起こすことができる。
著者はイートロと呼ばれるオンラインの金融取引サービスを通じた社会実験の結果を示しています。イートロではトレーダーが自身のポートフォリオ構成や過去の成績を公開しており、他者の戦略を真似することができます。
取引実績データを分析した結果、「適度に」他者の戦略を真似したトレーダーの投資利益率が30パーセント上昇したことが明らかになりました。他者の戦略を全く真似しない、あるいは自分の戦略は持たずに他のトレーダーを完全に真似するトレーダーのグループも明らかになりました。
これらのことから、ネットワーク構造(つながり方)が重要であると示唆されますが、それでは情報やアイデアの流れが望ましい判断や行動に帰結しやすいネットワーク構造とはどのようなものなのでしょうか。
「スケールフリー・フラクタル・ネットワーク」という言葉が登場しました。ネットワークにおけるスケールフリー性とは「次数分布のべき乗則」として表現されます。次数とは「ある要素がその他の要素との間に何個のつながりを持っているか?」を表す指標です。スケールフリーとは、全体のサイズが変化しても次数の分布が変わらない性質です。
「次数分布のべき乗則」が成り立っている時、一部の要素は非常に多くの要素とつながっている一方、多くの要素が少ない要素との間でつながりを持っています。旅客機の乗り換えを行うための地域の拠点となる大きな空港(ハブ空港)をイメージすると分かりやすいかもしれません。大きな空港同士が結ばれていて、大きな空港は周辺の小さな空港と結ばれている。このハブ構造が、人や物の流れ(伝播)の効率性を高めます。
そして、べき乗則に従う分布(べき分布)は全体を拡大・縮小しても同じ形状が現れます。伸び縮みに対して形質が不変であること。それがスケールフリーと呼ばれる所以です。
「フラクタル構造」とは雪の結晶のように、拡大・縮小すると元の形と同じ形が浮かび上がってくる構造です。「自己相似形」とも言われますが、社会的学習の中心は「模倣」であることと「相似」が重なります。
フラクタルにおいてコピーが積み上げられていくと、細部は複雑になっていく一方、全体の構造は一貫して保たれている。「シンプルさと複雑さの共存」がフラクタルの中心にあると思います。
では、「学習者間のつながりの形を最適なものとする」とは一体どのようなことなのでしょうか。
社会的学習は「行動を示す人」と「真似する人」の相互作用として現れる。そして、行動を示す人が「真似される」か否かが重要であるということ。
「この人から何かを学びたい」と思える人、少なからず身近にいるのではないでしょうか。有益性、信頼感、一貫性。著者が例示している他にはどのような特徴があるでしょうか。
ネットワーク構造は、つながりの「数」だけではなく、つながりの「質」も等しく重要だということ。こと人間関係の質(深さとも言えるでしょうか)においては、数値や言葉に還元できない面があります。深い関係の網の中で過ごしてばかりでは新しい情報やアイデアにアクセスする機会を逸失してしまうかもしれない。
「密な人間関係と疎な人間関係を適度にバランスさせる」ことが重要であると感じました。
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