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Flow(流れ)とSlow(遅さ)。

昨日は『ソーシャル物理学 - 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(著:アレックス・ペントランド)より「社会物理学とは何か」を読みました。

「情報やアイデアの流れ」に意識を向ける。その流れに変化を生み出せば、その変化がネットワーク全体に伝播して大きな変化が生まれる。人間は「社会的な生き物」と言われますが、人間社会は人と人の「つながり」でできている。そのつながりの中で様々な交換が行われます。交換の対象はモノだけではありません。感情や情報など、多岐に渡ります。

社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数理的関係性を記述する定量的な社会科学である。社会物理学は、アイデアが社会的学習を通じて人々の間をどのように伝わっていくのか、またその伝播が最終的に企業・都市・社会の規範や生産性、創造的成果といったものをどうやって決定づけるのか、私たちの理解を助けるものだ。

物理学というと「物体・物質」を思い浮かべますが、それらを「人間」に置き換えると、どのような世界が見えてくるのでしょうか。

人間は自らが置かれた環境の制約を受けながら、自律的に行動しています。環境との相互作用、力学の中で思考、判断、行動を重ねている。そして、制約条件を自らに望ましいように変えてゆくこともできる。

社会的な相互作用・力学を「情報やアイデアの流れ」を通して捉える視点が非常に興味深いです。

これにより、小規模なグループ、企業内の一部門、さらには都市全体の生産性を予測することが可能になる。またコミュニケーションのネットワークを微調整することで、より良い決断が下せるようにしたり、生産性を上げたりすることもできるようになるだろう。

自らの生産性や決断も、自分が埋め込まれたネットワークの力学によって決まっているのかもしれません。高い圧力がかかった状態で何かを判断するのと、リラックスした状態で判断する場合とでは、結果は異なるかもしれません。

あるいは、他者からの情報やアイデアが伝わりにくい関係にあるとすれば、より望ましい判断を下せないかもしれません。(もちろん、他者の意見や情報を何でも受け入れれば良いというものでもありませんが)

社会物理学の観点から考えれば、この問題に対する最善の解決策は新しい戦略が普及する速度が遅くなるようにソーシャルネットワークを変化させることである。実際にそのような変更を加えたところ、平均ROI(投下資本利益率)は2倍に改善された。これまでの経済学的アプローチを上回ったというわけだ。情報が普及するスピードを遅らせるというのは、従来の経営学では決して考えられなかった解決策だろう。

株のデイトレーダーの間でSNSを通した情報交換の機会を与えると何が起こるのか。著者がMITラボ主導で実験したそうです。結果、デイトレーダーはお互いの行動に過剰反応し、株の売買で全員が同じ戦略を取りやすくなる(ハーディング現象、群集行動)が起きました。

相手を過剰に模倣してしまう結果、思考・行動の同質化が起こってしまう。「過剰な情報やアイデアはノイズになり得る」ことを反脆弱性の概念の中で学びましたが、自分が触れる情報やアイデアの量を適度に調節しなければ、システムとして脆くなることにも通じているように思います。

流されすぎないように、惑わされないように。自分を取り巻く流れの速さが加速し続ける現代社会において「流れを遅くする」ことに意識を向ける。

Flow(流れ)とSlow(遅さ)。


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