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【現代小ばな詩】てえへんだ!

江戸前寿司と申しましてな、江戸時代から伝統の高級なお寿司がございます。それに倣いまして、江戸前落語風のですな、現代こばな詩をやってみようかと存じます。

「まんじゅう怖い」という古典落語がございますが、昔から怖いものと申しますと、「地震、カミナリ、火事、オヤジ」でございます。最近のオヤジはだらしなくてですな、エディプス・コンプレックスなどとフロイト先生が仰有いましたような、大層な心持ちでおりますと、ころすオヤジが見る影も無くなっておりまして、哀れみさえ感じる始末でございます。わたくしの母も70歳になりまして、ひどくショックを受けましたが、まあ大変だ大変だと愚痴を申しております。しかし本当に大変ですと、「大変だ」などと言っていられる余裕はございません、などとわたくしは愚行いたします。


てえへんだ!てえへんだ!
地震だ!
カミナリだ!
火事だ!
オヤジだ!

「人間、てえへんだといっていられるうちはまだ大丈夫だ」

てえへんだ!
「まだ大丈夫。てえへんだと言っていられるうちは余裕があるのさ」

てえへんだ
「まだ大丈夫」

てえへん
「まだ大丈夫」

てえへ
「まだ大丈夫」

てえ
「まだ大丈夫」


「て、手がなんだって?」

あんた、もう遅いよ、手だけになっちまってる。あんだけ警告したのにさ。
「ありゃ、そりゃ、てえへんだ!」

あれ、てえへんだといっていられるうちは大丈夫なのかね?

「真似するんじゃねえ。「」がついてねえぞ」

最初からついてねえよ!


お後がよろしいようで。

2022年3月18日 丸山真

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