施設に入る理由
高齢者や障がい者が家族と共に暮らせなくなったり、ひとり暮らしが継続できなくなった時には「施設」という選択肢もあります。
では、どうして入ることになってしまったのか。
ここで書くのは、高齢者では「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」、障がい者では「共同生活援助」を中心に書こうと思います。また、僕は「入所」というより「入居」と書いていきます。
最初に書いておきたいのは、本人も家族の「施設に入る」というのは苦渋の選択だということです。自分のこれまでの生活ではないところに生活する苦悩は計り知れない。健常者(と書くしかないが)は、「社会」の中で暮らし方を変えているが、高齢者や障がい者では、「福祉」の中での暮らし方を変えることが中心になってしまう。
(1)家族が介護(支援)できなくなった
理由としては、一番多いと思っています。家族が本人の願いでもある「自宅で暮らしたい」ことを支えてはきたものの、本人の病気や障害が重度になったり、医療的ケアの頻度が高くなると、限界になってしまう。また、家族自身の生活のために、仕事と介護を両立していくことを考えていくと、負担がかかってしまう。ちゃんとした経済基盤があれば、家での生活が続けられるとしても、どうしても家族だけでは難しくなる時が訪れる。
また、支援したいけれど、高齢の親では障がいのある子どもの介護に限界もでてくる。成長してくる子どもと、体力的に衰えてくる親では今後の生活を考えてくると「施設に入れるしかない」と思ってしまうかもしれない。
(2)介護者からの逃避
(1)とは違うが、家族がネックになっている。家族が本人に対して「虐待している」「束縛している」「干渉しすぎている」時には、家族から距離を取るために、周りの人の支援で、ほぼ強制的に入居ということもありうる。施設が絶対的に守られている空間とは言えないとは思いますが、本人の負担を減らす方法の一つになると思います。
ただ、距離を置いたとしても、本人の生活への支援をしなければこれからも同じことになってしまうかもしれない。
(3)金銭管理が自分ではできなくなった
ひとり暮らしで年金で何とか生活していたものの、浪費があったり、借金があったりで、どうにもならなくなり、生活保護を利用するようになったとしても、管理ができないのは同じだから、施設入居になることもあると思う。使いすぎるということは、それだけ自宅での生活の周りに「魅力的な出来事」が多いからだと思います。
施設で金銭管理をすることでは、今の生活費のことも考えないといけないが、昔の借金のことも視野にいれないといけない。ただ、施設での金銭管理に不安のある時には、そのほかのサービスを利用することになる。
そんなこと言っていたら、「自宅でも金銭管理がきちんとできれば生活できる!」と言われそうだけど、生活費に困るということだけでなく、「ライフラインに関わる費用(水光熱費)に困る」と言ったほうが良いのかもしれない。
(4)立ち退き、アパートの契約が更新できない
賃貸住宅で暮らしていたものの、老朽化で壊さなくてならなくなったり、家賃が払えなくなったり、入居の契約上の問題があったり、する。
今では「改正高齢者すまい法」があり、入居者も守られているとはいえ、生活できる限界はどうしても出てくると思う。これまでの大家さんとの関係もある、ご近所さんとの付き合いもある、だから離れたくない。そして、契約ができなくなったこと、保証人を頼めなくなったこと、という現実も突き刺さってくる。
(5)医療機関からの退院先
いざ、退院が決まった時に困ることとしては「どこに帰るのか」ということもある。もちろん、自宅が優先だとしても、バリアフリー化が進んでいない状況での帰宅はできないし、家庭の状況によっては自宅に帰れたとしても介護ができるか分からない。
本人は「退院」=「自宅に帰れる」と思っているから、いざ、「施設入居」と分かった時の怒りはあると思う。
僕としては「自宅が全くダメ」というよりも「何かあった時の対応を考えて安心だから」で施設になることが多いかな。
本人にとって「施設」はどういう存在なのか
このことを考える際に「施設入居に対する本人への説明ができているか」「施設入居する本人のイメージトレーニング、心構えができているか」を考えてみたい。
だいたいが「できていない」と思う。説明は、家族がするか、相談員がするかだと思うけれど、本人からは反対や拒否されるのが予想できるから、なかなか本題へいきにくいかな。そして、説明ができていないから、イメージトレーニングもできない。
言われるのは「いきなり」である。
僕が思うに「施設」は「自由がない」から嫌なのではなくて「落ち着かなくて」嫌なんだと思います。他人の眼がある、入居する目的が分からない、家族が近くにいない、ことの混乱がある。
「施設しかない」なのか?
今では福祉施設はサービスも特徴も様々です。そんな中で、なぜ他の選択肢がある中で、施設なのか。
「安心」だけではない。
もしかしたら、家族も「本人からの逃避」があるかもしれない。
本人にこれ以上振り回されたくないという思いもある。散々、わがままなことを言われたり、されてきたから、家族からの「離縁状」みたいに必死な願いでの入居だと思います。
最後に、
お金もかかる…「施設に入れた」後ろめたさもある…と入居に対しては否定的な意見もあります。ただ、施設はずっとそこに居なければならないものではありません。色んな課題が解決されていけば、自宅に戻る(一人暮らしをする)ことも可能だと思います。なかなか難しいのはこれまでの経験でも分かりますけど…。
講師をしていた時に話をしていたのは、
一人暮らしをする中での「自由」をとるか、
施設入居をしていく中での「安全」を取るのか
これまで書いたことがすべての状況に当てはまるわけではないとは思いますが、これからは「施設」と「自宅」の暮らし方の区別をはっきりさせないと「施設」という選択肢は残ってしまうとは思います。
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