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朝の通勤電車の風景

東京行きの上り電車。

7時台の通勤電車は今朝も東京方面へ向かう通勤客が乗り込んで来るが、
コロナ禍以降のこの路線は幸いにもぎゅうぎゅう詰めまではいかないくらいの適度な混み具合なのがありがたい。

座席間の通路にスペースを見つけて身体を滑り込ませるが、少々窮屈だ。
すぐ次の駅で目の前のスペースが空いた。

ドアから3つ目の座席。
座席に座っていた客が降りたので、僕の前で吊り革につかまっていた男性がドスンと腰をかける。

白髪混じりのごま塩頭だけど、まだ50代にはなっていない。
おそらく40代。
スーツの上下にノーネクタイの白いシャツ。
この季節の典型的な会社員のユニフォーム。
大手メーカーの技術者によくいるような感じの男性。

座席に浅く腰をかけ足を前に投げ出しだらしなく座る。
スーツ上下と似つかわしくないだらしのない座り方。

座席前のつり革が空いたので一歩前に出ようと思うが、その男性の靴だけが通路側に突き出ていて立つ位置取りが出来ない。

いい年して迷惑だなぁ。
電車の座席には深く真っ直ぐ腰を掛けなさい、と習わなかったか。

学校サボりの中学生に説教するような気分でごま塩頭を見下ろしていたら、
よほど疲れているのか、すぐに眠りはじめた。

顎が上がり、後頭部を窓に寄りかけて口をあけてだらしなく眠っている。

あぁ、みっともない。
朝からどうして口の中を見せて眠りこけられるのか。
ゴミでも放り込んでやろうか。
そんな意地悪な気持ちが湧き上がる。
それもこれも、靴が邪魔なくらい足を放り出して座っているからだ。

朝の電車でちゃんと座っていられないほどの過重労働を強いられているのか。
もう令和だぞ。

一歩前に出て立てないので、後ろの通路の乗客に申し訳ないなと思いつつつり革にしがみついて目を瞑ってイヤホンで音楽を聴く。
こんな時は現実逃避してやり過ごすのが得策だ。

東京、東京。
日本の誇るターミナル駅。
車両の乗客の半分くらいが入れ替わる。
目の前の座席で口を開けて眠りこけていたごま塩頭が、突然むくっと目を覚まして立ち上がる。

どうしてそんなに突然目が覚めるんだ。
お前は今まで爆睡していたはずだろう?
どういう芸当か分からないが、きっと何年もこんな生活をしているんだろう。
自然と20分間の仮眠で目が覚めるような回路が出来上がったに違いない。

だけど、周りに何の注意も払わずに急に立ち上がったものだから、目の前に立っていた僕のつり革を持っていた右手に思い切り頭がぶつかる。
痛っ。
すまんという気配も素振りもなく、それこそチラリとこちらを見ることもなく、通路の乗客を押しのけてドアに向かって突っ込んで降りて行った。

ドアが閉まり電車が走り出す。
周りの乗客達と目を合わせるでもなく、それでもなんとなく
「困ったものですよね」
みたいな空気を共有して、少し周囲の空気が穏やかになる。

あんな大人には絶対ならないように注意しないとな。
自分よりおそらく15は年下の男性会社員を反面教師にして、朝の通勤電車は南下していく。

<了>

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