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③進行する琉球列島全域のミサイル基地化(「命どぅ宝の会」メルマガ第53号から)

●与那国島・石垣島・宮古島・奄美大島・馬毛島の基地建設の現状

 自衛隊の南西シフトによる、九州南端から与那国島に至る、琉球列島=第1列島線に沿う、ミサイル部隊を軸とした大がかりな基地建設・配備の実態は、報道されることが少ない(写真は宮古島に建設中の「保良ミサイル弾薬庫」内の射撃場)。

 これら琉球列島の基地建設の中で、いち早く自衛隊が配備されたのは、日本の最西端・与那国島だ。
 台湾まで約111キロという距離にある同島と台湾との間の海峡は、頻繁に中国の軍民艦船が行き来する。
 この与那国島の山頂に5基、異様な形で聳え、配備されているのが陸自沿岸監視隊160人の部隊だ(2016年3月配備)。沿岸監視レーダーは、与那国西水道を通過する中国軍艦を常時監視する。また、与那国駐屯地東側の一段と高い場所には、対空レーダーも設置。島には今後、空自移動警戒隊(約20人)、陸自電子戦部隊(約70人)の配備も決定された。与那国島部隊は、この増強で250人に膨れ上がる(与那国と台湾間の海峡の公式名称はない。便宜的に筆者は「与那国西水道」とした)。

 与那国島の東、石垣島には、陸自の対艦・対空ミサイル部隊、警備部隊(普通科部隊)計約600人が配備される予定だ(防衛省は2022年度内開設を通告)。この石垣島では、宮古島、奄美大島よりもはるかに遅れて、2019年3月に基地造成工事が始まった。そして現在は、コロナ禍でもほとんど休止することなく、本格的なミサイル基地造成工事が急ピッチで続いている。

 しかし、石垣島では、基地建設の発表以来、激しい基地反対の運動が起きている。予定地である平得大俣地区の農民らを中心にして、石垣市民の間にも根強く運動は広がっていった。同地区は、島への食糧を供給するもっとも豊かな農村地帯であり、戦後沖縄本島から移住してきた農民たちが、厳しい環境下で切り開いてきた開拓農地だ。しかもこの地帯は、沖縄においても最高峰を誇る於茂登岳から湧き出してきた豊かな水源地帯である。

 この地にミサイル基地を造るという自衛隊の横暴に、農村の青年たちが起ち上がった。この運動は、基地建設の是非を問う、住民投票を求める闘いへと発展する。この住民投票署名は、わずか1カ月の期間に石垣市有権者の4割を超える、1万4844筆の署名を達成。しかし、この状況に驚いた石垣市長らは、この「市条例に基づく住民投票実施」を拒否するという暴挙に出たのだ。これに対し、住民投票の実施を求めて石垣市を訴えた裁判が、今なお続いている。

 また、石垣島では、太平洋戦争下の戦争マラリア罹患者を軸につくられた「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」(代表・山里節子さん[84歳])が、当初から活発に反対運動を繰り広げている。オバーたちの会は、毎週日曜日、島の各所で基地反対のスタンディングを行い、これは開始以来150回を超える。

 石垣島とともに、今なおミサイル基地を阻む激しい運動が続いているのが宮古島だ。2019年3月、ここには陸自の警備部隊が配備。また、地対艦・地対空ミサイル部隊も、1年遅れの2020年3月に配備された(約800人)。だが、この年に配備された部隊は、「ミサイルなし」(弾なし)の部隊である。この時にはミサイル搭載車両多数が配備されたが、これらは、キャニスター(発射筒)だけを搭載したものだ。というのは、ミサイルを保管する弾薬庫は、21年4月に同島南東の保良地区にようやく一部開設したが、住民の激しい反対運動の結果、ミサイル弾薬の搬入が大幅に遅れることになったからだ。

 この理由は、保良地区のすぐ側(200㍍)に造られているミサイル弾薬庫に抗し、住民たちが2年以上にわたって工事現場に座り込み、弾薬庫反対の行動を続けてきたからだ(工事開始以来、約800日を超える「ミサイル・弾薬庫反対!住民の会」の座り込みが、一日も休むことなく不屈に続けられている)。
 もちろん、この保良を始め宮古島では、千代田地区の宮古駐屯地に対しても、反対の闘いが粘り強く続けられていることを付言しておかねばならない。

 ●南西シフトの機動展開基地となる奄美大島・馬毛島

 奄美大島のミサイル基地開設は、宮古島と同じ2019年3月だ。奄美大島では、警備部隊と地対艦・地対空ミサイル部隊が、島の3カ所、計550人規模で配備された。さらに、今後、空自の移動警戒隊(奄美駐屯地内)・通信基地(湯湾岳)、陸自電子戦部隊が配備される予定である。もともと小さな通信基地等しかなかった奄美大島もまた、要塞島になりつつある。

 奄美大島で驚くのは、これらの基地の規模である。奄美駐屯地(大熊地区)の敷地面積は、約51㏊、瀬戸内分屯地(瀬戸内町)は、約48㏊(石垣基地の約2倍・宮古基地の約2.5倍)。そして、瀬戸内分屯地には、巨大弾薬庫(約31㏊)が今なお建設中だ。山中にトンネル5本を掘るミサイル弾薬庫は、それぞれが約250㍍の長さの地中式弾薬庫である。弾薬庫は、現在2本目が完成しているが、情報公開文書によると全ての完成は2024年だ。

 この奄美大島のミサイル弾薬庫には、作戦運用上の目的もある。奄美大島―馬毛島は、先島諸島有事への、兵站・機動展開・訓練拠点として位置付けられている。つまり、この瀬戸内弾薬庫は、南西諸島有事へのミサイル弾薬の兵站(補給)拠点である。

 奄美大島とともに、種子島―馬毛島の基地化が、自衛隊の南西シフトの一環であることは、以前から防衛省サイトでは公開されている(「国を守る」)。これは別の項で詳述するが、メディアでは、予定される馬毛島基地が、あたかも米軍のFCLP(空母離着陸訓練)だけの基地であるかのような報道が一貫して行われている。だが、米軍のFCLPは、自衛隊の南西シフトの付随施設に過ぎない。まさしく、この馬毛島―種子島には、自衛隊最大の陸海空統合基地が造られようとしているのだ。

 ●沖縄本島の増強とミサイル要塞と化す琉球列島

 以上の先島などと同時進行しているのが、沖縄本島での全自衛隊の大増強だ。すでに2010年、那覇の陸自第15混成団は、旅団へ昇格、空自も2017年、南西航空混成団から南西航空方面隊に昇格。那覇基地のF15戦闘機は、2倍の40機へと増強された。

 そして、沖縄本島の全自衛隊は、2020年には、約9千人に増大(2010年約6300人)、陸自・沖縄部隊は、最大勢力の約5100人に増強された。
 問題は、この中で沖縄本島へ地対艦ミサイル部隊の配備が決定されたことだ。新中期防衛力整備計画(2018年~)では、宮古島・石垣島を含む3個ミサイル中隊の追加配備が決定されたが、この1個中隊の陸自・勝連分屯地への2023年度の配備が通告された。勝連への配備は、ミサイル中隊と同時に石垣島・宮古島、奄美大島の地対艦ミサイル部隊を隷下におく、地対艦ミサイル連隊本部の配備(約180人)と発表されている。この配備が行われると琉球列島では、地対艦ミサイル1個連隊「4個中隊」が編成・完結される。
 海自(空自)でも、「いずも」「かが」型護衛艦の空母への改修工事が完了しつつあり、すでに海自空母と米強襲揚陸艦との共同運用が行われつつある。

 その他、南西シフト下で「島嶼奪回」部隊として、華々しく喧伝されているのが、佐世保市で編成された水陸機動団だ。これは現在、2個水陸機動連隊が編成され、新たに1個連隊の増強が決定された(長崎県大村市・竹松駐屯地)。この他、南西シフト下では、九州の空自増強と日米共同基地化が進行し、宮崎県新田原基地には、米軍配備とともに自衛隊が新規に保有するF35B配備が通告され、福岡県築城基地では、米軍配備のための滑走路拡張工事などが始まった。

 このような、石垣・宮古・奄美・沖縄本島などへの地対艦・地対空ミサイル配備を皮切りに急速に進んでいるのが、さらなる琉球列島へのミサイル要塞化計画だ。この計画は、米軍の新しい戦略下で、まさに琉球列島全体が、対中国の「攻撃的ミサイル基地」となる段階へと至りつつある。この全容については、以後別項で詳細に述べる。

 ●対中国の日米共同作戦

 ところで、自衛隊の南西シフトの初めての策定は、2010年の新防衛大綱だ。これは、米軍のエアーシー・バトル(2010年QDR)のもとで決定された。この具体的な運用計画が示されたのが「沖縄本島における恒常的な共同使用に係わる新たな陸上部隊の配置」(2012年統合幕僚監部)という文書だ。

 この文書では、在沖米軍基地―嘉手納・伊江島航空基地等を含む在沖全米軍基地の、自衛隊との共同使用が明記され、さらにこの後編成予定の陸自1個連隊のキャンプ・ハンセンへの配備も記されている。つまり、このハンセン配備予定の水陸機動団が、辺野古新基地をも使用し、日米共同基地にするということだ(21年1月28日付沖縄タイムスは、これを裏付ける辺野古新基地の水陸機動団との共同使用密約を報道)。
 こうしてみると、自衛隊の南西シフトは、初めからエアーシー・バトル下の日米共同作戦として決定されたといえる。

 この作戦の特徴は、在沖・在日米軍は中国軍のミサイルの飽和攻撃を逃れ、あらかじめ空母機動部隊のグアム以遠への一時的撤退を予定していることだ。そして、中国軍のミサイル飽和攻撃が終了した後、米空母機動部隊などは、第1列島線に参上し参戦する。
 すなわち、米軍は、対中戦略では自衛隊の南西シフトに依拠する。つまり、第1列島線沿いに配備された、自衛隊の対艦・対空ミサイル部隊が、初期の対中戦闘の主力となる。

 米軍の初期構想では、これら琉球列島に配置されたミサイル部隊の任務は、中国軍を東シナ海に封じ込め、「琉球列島を万里の長城、天然の要塞」にするとしている。これはまた、中国の軍民艦船を東シナ海へ封鎖する態勢であり、中国の海外貿易を遮断する態勢づくりだ。

 しかし、エアーシー・バトルという戦略は、一時的であれ、米海軍の西太平洋の制海権を放棄する態勢である。これは、米海軍においては「制海権放棄」という第2次大戦後の初めての事態になる。

 こうして、この状況を全面的に修正する戦略が、「海洋プレッシャー戦略」として提言された(戦略予算評価センター[CSBA]、2019年5月)。
「海洋プレッシャー戦略」とは、端的にいうと、中国の初期ミサイル飽和攻撃に対処する「撤退戦略」を修正し、「対中・前方縦深防衛ライン」を構築し、戦争の初期から「西太平洋の制海権を確保」する戦略だ。

 作戦の中心は、第1列島線沿いに分散配置された対艦巡航ミサイル、対空ミサイルなどを装備した日米軍の地上部隊が、中国の水上艦艇を戦闘初期で無力化する。つまり、琉球列島に配備された自衛隊の対艦・対空ミサイルと、米軍の新たな対艦・対空ミサイルとの共同作戦である。

 この戦略下、米海兵隊も「フォース・デザイン2030」を提唱し、その構想が「紛争環境における沿海域作戦」(LOCE)、「遠征前方基地作戦」(EABO)としてすでに具体化している。これは、第1列島線上に海兵隊が、地対艦ミサイルなどで進出することが最大の核心だ。2027年までにそれを担う「沿岸連隊」を沖縄に配備するという。

 こうして今、日米の南西シフト態勢=琉球列島のミサイル基地化が、無一段として強化され、本格化しつつある。この再び沖縄を最前線とする戦争態勢づくりと、どのように対峙するのかが、今問われている。

●小西 誠(軍事ジャーナリスト・ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー・)

 
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