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スキマcinema主宰 大木真実さん(沼津市)「人生を変える映画との出会いは、やっぱり映画館なのかも」インタビュー全文掲載

富士山麓エリアの文化をつなぐローカルメディア「On Ridgeline」に掲載されたインタビュー(前後編)を一気読み。
これはスキマcinemaka×On Ridgelineのタイアップ記事です。

はじめに

スキマcinemaは、“まちのスキマ空間やマニアックなスキマ作品の上映”をコンセプトに、沼津市を中心に空き家や公共空間での映画上映会を開催しています。
しかし、コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、2020年の2月以降は活動休止の状態が続きました。

いよいよ活動再開となる今回の上映のこと、そして活動休止期間の思いについて、沼津市でグラフィックデザイナーとして活動し、スキマcinemaを主宰する大木真実さんに聞きました。

はじまりは「蔵の中でみんなと映画を観たらおもしろそう!」という直感

On Ridgeline:そもそも「スキマcinema」を始めたきかっけは何だったんですか?

大木:2016年9月に沼津市が主催する「リノベーションまちづくり」の「市内空き家見学ツアー」に参加したことがきっかけです。

この時に、倉庫として使われてた空き蔵を見学したんですが、「この真っ暗な空間で、みんなで映画を観たらおもしろそう」と直感的に思いました。そのことをみんなに話したら応援してくれて、市役所のサポートもあって、トントン拍子で。
2016年11月5日にスキマcinemaプレ上映会として市内の空きビルで『もぐらのクルテク』の上映が実現できました。

当初からこの上映会を一過性のイベントではなく、日常にしたいと思っていたので、「毎月最後の日曜日はスキマシネマの日」というキャッチコピーをつけて、無理くりでも毎月開催してきました(苦笑)。

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INN THE PARK・芝生広場公園での上映会
Photo by Ebato Takes

On Ridgeline: これまでの上映作品リストを拝見して驚きました。2017年以降は毎月上映会を開催し、これまで40回以上も開催してきたんですね。
しかも、ただ上映するだけでなく、会場内のデコレーションや映画と連動したワークショップ、飲食店出店など。スキマcinemaならではの企画が魅力的ですね。

大木:シネマということで、白と黒をスキマcinemaのテーマカラーとして会場内を毎回デコレーションしています。

なによりスキマcinemaの一番の特徴は「自由なスタイルで映画を観よう」ということ。そのために、スクリーンの前にラグを敷いたり、座椅子やクッションを置くこともあります。

寝転んでも、立ったままでも、うろうろしながら観てもOK。
小さい子供って椅子に座ってじっとしていることが難しいじゃないですか。だけど、スキマcinemaは自由に動けるので、参加者からは「子供と一緒に最後まで映画を観ることができた!」という感想もいただいています。

それに、せっかく映画をきっかけに集まったのに、ただ映画だけを観て帰るのはもったいない。だから、見終わった後に話ができるように飲食ブースやワークショップといった場所も用意するようにしています。
あと、ワークショップは、映画配給会社へ支払う費用を補填するため…という理由の時もありますね。

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沼津ラクーン屋上での上映会
Photo by Ebato Takesi

映画館と動画では受け取る感情が違う

On Ridgeline: しかし、コロナウィルス感染拡大を受けて約半年間の活動休止…。その間はどんなことを考えていましたか?

大木:2月にベアードブルワリーガーデン修善寺で、ミッシェル・オスロ監督作品『夜のとばりの物語』を上映して以来、約半年ぶりですね。
この半年間、私も動画配信サービスでたくさんの映画を観ました。
そのなかで「パソコンがあれば何でも観られる時代に、スキマcinemaとして上映会を続ける意味はあるのかな?」とも悩みました。

でも、動画配信サービスなら、好きなタイミング、楽なスタイルで観られるけれど、でも、なんだか“こなしている”という感覚があって…。
映画館で観るより受け取る感情が少ないなと感じたんです。感情が違うというか。

小さなミニシアターだと、斜め前の人が涙を流したり、くすくす笑ったり、周囲の感情も映画を観ながら伝わってくる。
空間を共有した映画体験と動画では、受け取る情報や感情のボリュームが違うのではないだろうか。人生を変えるような映画との出会いは、やっぱり映画館じゃないと生まれないのではないだろうか。そう考えるようになりました。

私にとってこの半年は、スクリーンで観る映画体験の大切さを再確認する期間でしたね。

「商店街がパリの風景に見える」の一言に驚き

On Ridgeline:今回は、アーケード解体が進む新仲見世商店街が会場ですが、なぜこの場所に決めたのでしょうか?

大木:新仲見世商店街では、空間再編成が行われているところです。ちょうど今、アーケードの屋根が取り外されて鉄骨のフレームだけの状態。9月中には、アーケードそのものが撤去される予定です。

だから、この骨組みだけの状態を楽しむことができるのは今だけ。ラストチャンスなんです。

ある時にテレビのイマイのご主人が「夜、この鉄骨を見上げると、ここがパリの風景みたいなんだよねえ」って言っていて、驚きました。
たしかに、映画『ディリリとパリの時間旅行』に登場するエッフェル塔の鉄骨フレームがアーケードに似ていなくもない…ような? 

そのお話がおもしろかったので、当日はスクリーン越しにアーケードの鉄骨フレームが見えるようにセッティングするつもりです(笑)。

私も新仲見世商店街で「NUMAZU DESIGN CENTER」を運営しているので、これからの新仲見世商店街のための空間再編成の会議やワークショップに参加しています。まだ具体的なプランは決まっていませんが、商店街を広場や公園のように、みなさんに日常的に使ってもらえる空間にしようという話になっています。

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現在、商店街にテーブルやイスを設置しているのも空間再編成に向けた社会実験としての試みなんです。

今回の上映会をきっかけに、商店街のことをもっとみなさんに知ってもらいたいという意図もあって、上映会前後に商店街の会長から新仲見世商店街の空間再編についてお話してもらう予定です。
そういう場をつくることも、今回の上映会の役割だと思っています。

On Ridgeline:大木さん自身はどんな映画が好きなんですか?

大木:昔からミニシアター系の映画が大好きだったんです。私のオールタイムベストは『ロシュフォールの恋人たち』です。ジャック・ドゥミ監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演、音楽がミシェル・ルグランという、フランス映画界のゴールデントリオによる作品です。
沼津にもシネコンがありますが、そういったミニシアター系の作品は観ることができない。2015年にジョイランドシネマ沼津が閉館になったのも、ショックでしたね。
沼津で再びミニシアター系作品が観られる場所が欲しいと思って、スキマcinemaの活動を始めたのですが、今は単純に映画を楽しむというより「みんなに観てもらいたい!」という感情が湧いてきました。体験を共有したい気持ちが強くなっています。

場所選びよりも掃除が大変

On Ridgeline:毎回、上映作品と会場選びが絶妙ですよね。企画する時には場所を先に決めるのですか? それとも作品を先に決めるのでしょうか?

大木:そこはケースバイケースですね。上映したい作品があって、それに合わせて場所を探すこともありますし、場所が気に入って、そこから上映作品を考える場合もあります。
場所と作品のセレクトもそうですが、毎回、季節感も意識して企画しています。

On Ridgeline:しかし、これまで旧瀬尾記念病院のX線室や、沼津市内最後の銭湯だった「吉田温泉」など、スキマcinemaはイベント開催が難しそうな場所でも上映会を実現していますよね。どうやって交渉しているんですか?

大木:沼津市内には空き地や使っていない建物がたくさんあったので、会場探しについて困ることはありませんでした。「この場所、いいな」と思った場所を市役所の方に伝えると、建物のオーナーにつないでくれたり、サポートしてもらえます。
場所を借りることはそれほど難しくないんですが、空き家なので綺麗で片付いている状態ということがほとんどないんです。倉庫として使っていたり、荷物が入ったままだったり…。

まず大掃除をして、荷物の移動して上映会ができるスペースをつくらないといけない。その作業が大変なんです。

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西浦久料・The Old Bus上映『縄文号とパクール号の航海』(2019.8.3)
Photo by スキマcinema

すきま空間で上映会を行う意味

On Ridgeline:これまで開催したなかで、思い出深い上映会はありますか?

大木:一番会場の雰囲気があたたかったのは吉田温泉です。富士山麓エリアの絵があって、丸い浴槽がある銭湯でした。そこにプロジェクタを設置して、みんなで浴槽の周りに座って鑑賞しました。

営業していた当時を知っている人は少なかったけれど、一度入ってみたかったという人はいましたね。銭湯って今は少ないので、子どもたちにとっても新鮮だったと思います。

上映会を通じて、吉田温泉が長年大切に使われていた場所で、みんなに愛されていたんだなあと実感しました。

昔、活気があったところに人が集まる。そのきっかけが映画というのは良いなあと思いました。吉田温泉のオーナーは、今もスキマcinemaの活動を応援してくださっています。
この回を通じて、普段使われていない空間で自主上映会を行う、その意味が私の中で確かなものになりました。

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吉田温泉での上映『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(2017.2.26)
photo by スキマcinema

活動をサポートするスキマクルー募集中!

On Ridgeline:上映会運営をサポートするメンバーを「スキマクルー」と呼んでいますよね。Webサイトを見たら「メンバー募集中」とありましたが、どういう人がスキマクルーに参加できますか?

大木:現在、メンバーは15人ほどいます。普段はFacebookグループで情報共有していて、時間が合えばその時に手伝いにきてもらう…そんな感じで、ゆるーくつながっています。

つねにスキマクルーは募集していますので、気軽にメールなり、現場で声をかけていただければ。メンバーは映画好きがほとんどですが、ほかにもまちづくりやものづくりに興味があるメンバーもいます。雑貨屋、フォトグラファー、イラストレーターもいるので、ワークショップの企画も考えてもらっています。

これまでも、突然「映画が好きです」ってメールが送られて、それから活動に参加してくれる人もいます。スキマcinemaを始めてたくさんの映画好きとつながれたことがうれしい。
スキマcinemaの活動に共感してもらえる方であれば、ぜひメールください。

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スキマクルーのメンバーたち
Photo by Asanuma Haruka

On Ridgeline:2016年からの活動を振り返って、変化はありましたか?

大木:自分たちで行うイベントは本当に小さな上映会なんですが、「一緖に何かできませんか?」と声をかけていただき、もっと大きな上映会を実現できるようになりました。

それに、スキマcinemaの上映会を通じて興味なかった人にもマニアックな作品に触れてもらう機会を作ることができているのではないかと思っています。それがすごくうれしい。そういう場をもっと作りたいです。
やっぱり映画って、みんな興味があって、参加もしやすいイベントなので。

On Ridgeline:今、コロナ禍においてドライブインシアターや屋外上映をしたいっていう人も増えていると思います。自主上映を行う上でポイントがあれば教えてほしいです。

大木:自主上映ってプロジェクターとスクリーンが白い壁あれば、意外と簡単にできるんですよ。大手配給会社の作品上映は難しいけれど、Webで「自主上映」を検索すると結構たくさん作品が見つかります。

収益がトントンくらいになるレベルであれば、集客は20人くらいで自主上映会は実現できます。
ただ、スキマcinemaはもともと上映するような場所じゃないことが多いので、吉田温泉とか20人でぎゅうぎゅう詰めになる会場も結構ありますね。

ただ単に映画を上映する場としてだけでなく、特色のある企画上映が各地に広がれば、おもしろいですよね。
各地にいろんな特色の上映会があったらお客さんとして参加したいな。

On Ridgeline:再始動するスキマcinemaのこれからについて教えてください。

大木:上映用機材一式を車に積んでいけば、どこでも上映できるので出張上映とかやりたいですね。
一度、掛川市原泉まで出張上映を行ったんですが、スキマクルーと「旅するシネマみたいでいいね。楽しいよね」という話していました。
依頼があれば出張上映にも行きたいですね。

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先日行われた新仲見世商店街での上映『ディリリとパリの時間旅行』(2020.8.22)
Photo by Ebato Takesi

プロフィール & 掲載情報

お話を聞いたヒト:大木真実さん
グラフィックデザイナー。1979年大阪府生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、都内のデザイン会社・広告代理店などでデザイン経験を積み、独立。沼津へ嫁ぐ。子育てをしながら仕事をしたいと思い、子どもの通学路にある新仲見世商店街に、グラフィックデザイナーのためのシェアオフィス「NUMAZU DESIGN CENTER」をオープン。また、まちの隙間空間を会場にした移動式ミニシアター「スキマcinema」を主宰。
www.daitai-graphic.com
www.ndc.design
www.sukima-cinema.comGALLERY | daitai-graphicdaitai-graphic.com

[On Ridgelineとは?]
静岡県東部を中心とした富士山麓エリアの文化をつなぐローカルメディア。ここに暮らす人も、遊びに行く人も、暮らしたい人にも知って欲しい現地の情報を発信しています。(編集長:森岡まこぱ)
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