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「もう疲れたよねぇ」が言える友との出会い

発達障害のこどもを育てるということは、ひとことで言って「非常に大変」である。

これはきれいごとでは済まされない、真髄の部分だと思う。

幼少期、私には息子を通してのママ友はほとんどいなかった。
とにかく息子が多動で、他のお母さんとの会話なんてあんまり成り立たない。話はするけれど、途切れ途切れでつまづいてしまう。
張り切って公園に向かっても、結局誰よりも早く退散した。
こどもをお砂場で遊ばせながら他のママと会話する、なんて優雅なことは全くできなかった。
時には泥だらけ、時には水浸し。
加減を知らない息子の収拾がつかなくなって慌てて家に退散する、その繰り返しだった。

だから「その人」との出会いはとても嬉しかった。
「その人」は「みっちゃん」といった。

ある日、いつものように療育センターのOT(作業療法訓練)を受けにいくと、そこにみっちゃんはいた。
みっちゃんにはうちの息子と同じ歳の「ソラくん」という男の子がいて、みっちゃんとソラくんはふたりでボールプールに入っていた。

「今回から、コウちゃん、お友達と一緒にOTを受けてもらうことになりました。スタッフで相談して、お互い刺激を感じ合えるといいなということで。でもあんまり人数が多いより、2人くらいがいいんじゃないかということになって。これから、コウちゃんとソラくん、当面2人でOTになります」

突然のことで少しびっくりした。
でも結果として、ソラくんとコウちゃん、2人でのOTはすごくよかった。

それまでOTでの私は、訓練中、息子の一挙一動に集中しすぎていつも肩に力が入っていた。
けれど、みっちゃん親子が混じってくれたおかげで、視線の先がいくつもできた。
そして何より、息子を産んで以来全然できなかった「同年代の子を持つママとの会話」ができるようになった。

これにはOTさんの力量もあったのだと思う。
私が息子から目を離しても全然安心なようにしてくれていた。
そして魅力的な遊具でいっぱいの作業療法の部屋という存在にも助けられた。
私はそうして、久しぶりに楽しい時間を持てるようになった。

みっちゃんは、すごくおっとりしていた。
初対面の私に

「昨日カラーリングに行ってきて。
いい気分転換ができたんだよねー」

とホワーンと笑った。
全然飾らないその雰囲気に、私はとりあえずヨロイを脱いだ。

発達障害のこどもを持つと、他の子を見る目もシビアになりやすい。
例えば

「あの子はうちの子と同じ月齢だけど、あんなこともできて。
単語もいっぱい出てる。高機能なのかな。
先生には何て言われたんだろう」

といった感じ。
何て浅ましいんだろうと思うけれど、これって何も私だけに限った思考ではなかったと思う。
わが子に遅れがあればこそ、心配でついそうなってしまう。

でも。
みっちゃんにはそういうところが全然なかった。
みっちゃんはコウちゃんにも、とても柔らかい視線を送ってくれた。

「もうさー。
もうねー。
子育て、疲れるよねー」

みっちゃんは初対面の私に続けてそう言った。
やっぱりホワーンと笑いながら。
がんばっているけど全然突破口が見えなくて、でも諦めてしまっているわけではない、そういうことが醸し出される、何とも独特の話し方。
私はすっかり脱力した。

それから私がみっちゃんに心を開くまで、あっという間だった。
そして毎回OTを一緒に受けられたことで、私たちはれっきとした「ママ友」になれた。

あれから15年近く。

みっちゃんの職業は実は作業療法士さんで、だから最初からあんなに余裕があったのか!というのは後でわかったのだけれど、いつもいろんなことをさりげなくアドバイスし続けてくれている。
そして、いろんな専門職の人との繋がりを持てる機会に「一緒にどう?」と声をかけてくれる。

きょうだい支援の会への参加も、療育キャンプへの参加も、親子遊びの会への参加も、全部みっちゃんが後押ししてくれた。
そしてそこで得た経験は、ものすごく大きい。

みっちゃんは、そんな風にいろんなことにパワフルだし、いろんな繋がりを作ることもとっても上手なのに、でも全然そんな風に見えない。
とっても控えめで、あっさりしていて、どちらかといえば「縁の下の力持ち」という感じ。


そして私たちは毎回口を揃えて言い合った。

「もう、疲れたよねぇ」

私たちはその合言葉を毎回どちらともなく唱え合う。
そして困り果てている自分たちのことをちょっと笑う。
ただそれだけで、すーっと楽になれた(気がした)。

みっちゃんはある意味天然なのかなぁと思う。
天然で、独特の、人を癒す力を持った人。

息子たち同士の付き合いももうすぐ15年近くになる。
お互いが全然関心なんかない様子だったのに、ある時久しぶりに一緒に遊ばせてみたら、ソラくんとコウちゃんはさりげなく絡んでいて。

「ねえ、あの2人、もしかして遊べてるんじゃない?
遊んでるんだよきっと!こんな日が来るなんて!」

そのことに気づいた私たちは、歓喜した。

それからも2人の子どもたちは、時々母同士が送る動画で互いの様子を確認している。
そして、会えば手を繋いでひと言ふた言会話をしたりする。
あとはそばにいればなんとなくそれが楽しい、そんな感じ。

先日みっちゃんと電話で話した時、みっちゃんがぽつんとこう言った。

「私たちってさ、まあまあ幸せだよね。
なんか、そう思えるようになったよね」

毎日いろんなことがあって、大変なことも日々繰り返しあって。
お互いの大変さは手に取るようにわかっていて。
でも、そう思えるようになったお互いに感動した。


大変なのは、確かにそうなのだけれど、それも含めてこれこそが私の(私たちの)人生なんだって、どんと構えられるようになった。
そして、こんな風だからこそ味わえる、しみじみした幸せを感じられるようになってきた。

まだまだ長い人生、これからもきっといろんなことがあるんだろうなと思う。
落ち込むことも、途方に暮れることも、また巡ってくるかもしれない。

でも、この戦友とこれからも一緒に歩んで行けたらいいなと思う。
そして見えない絆で不思議と繋がっているソラくんとコウちゃんも、ずっと仲良く育っていってくれたらな、と。

2人が初めてお互いを意識して楽しく遊んだ「その日」の動画です( ´∀`)

今回はおぼつかない手つきで動画アップに初挑戦しました。
これを読んでくださった方がちゃんと再生できるかどうか、ドキドキです💧

本日もお付き合いいただいて、ありがとうございました。

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