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『スピーチをしたぁくて、当時できるだけのコネを使って、大金はたいてぇ』


「それではここで、新婦の両親によるサプライズでございます」

暗転し

祝いの席にふさわしいのか絶妙な

フォークソングが流れ

まるで棺桶のような

四角い箱が高砂の前へ


「新婦生誕の前に深い眠りに就かれたお爺様、数十年の眠りを経て今ここに蘇られます。皆様、どうぞ盛大な拍手でお迎えください!」

ケバケバしい曲とともに明るくなり

スタッフが”棺桶”の蓋を開けると

白髪の老人がむくっと起き上がる

会場がざわつく

拍手を求められていた列席者だが

それに応じているものはまばら


おぉ

とか

ええぇ

とか

各々のリアクションがある


「おぉ、成功したんかこれぇおぉ?コールドスリープぅ!よしよし!よし!披露宴でゃ、スピーチでゃ、さぁ」

司会者にお爺様と呼ばれていた白髪の老人は

スタンドマイクを見つけるとスタスタとそちらへ向かう


「あい。んでゃはじめさしてもらうよ、まずはえぇ、このたびは結婚、誠におめでとう」

とまどいながらも会釈する新郎新婦


「あぇ、えっと旦那さん名前は?」

「え、っとヨシタカです...」

「あい。で、おおぉ可愛いな、俺の孫でゃさすが、名前は?」

「あ、アイリです...」

「ん?あ?」

「ア、イ、リ、です」

「ア、イ、リ、か。源氏名みてぇで」

色んな意味で静まりかえる会場


「お爺様、祝辞をどうぞ」

司会者が促す

「わたくしはぇ、この可愛い可愛いアイリちゃんが、生まれる前にね、あんたの結婚式でこうしてスピーチをしたぁくて、当時できるだけのコネを使って、大金はたいてぇ、冷凍保存してもらったんでゃ」

思いのほか

列席者一同は状況を飲みこんでいる様子


「ほんとに今日はぇ嬉しいなあ。ヨシタカ君、アイリを幸せにしてやってくださぇよぉ」

「は、はい...」

「アイリちゃん?」

「う、うん?」

「アイリちゃんは、今日から立派なお嫁ぇさんだ。料理だぁ洗濯だぁ家事に勤しんでぇ、ヨシタカ君をしっかり支えてやってほしいねぇ。あぁとそれに、アイリちゃん今いくつだ?」

「33...だよ...?」

「うぇ間に合うかね子供はねぇ、そうだねぇ5人は欲しいねぇ、ひ孫は可愛いでゃ。頼むよぇ...そのためにぇ、精のつくもん毎晩たらふく喰ってぇ...」



後方の親族席では

だから原稿は用意しとけと言っただろそんなの用意したってそのとおり読むわけないじゃないそもそもこんな企画自体どうかと思うわよしょうがねえだろ親父の遺言なんだからという新婦両親の言い合いが始まった















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