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『ワンサゲーン ~もう一度~』



僕は本来

もう少し夢というか希望というか

上昇志向があったように思う


あのときまでは



真昼の酷暑を紛らす

打ち水がわりのひと降りが止み

雑木林のほうから

蝉の鳴き声が時雨れてきた頃


ひとり縁側で僕は

練乳シロップがけのカキ氷を貪っていた


ぼうっとしていると

あっちの高校のほうから

セーラー服のお姉さんが

駆けて来るのが見えた


さっきの雨でずぶ濡れになっていたから

薄手の夏服は透け

僕には刺激が強い


短いスカートが踊っているのも

いっそう眩かった


僕の時間は止まった




来る日も来る日も

僕は縁側で練乳シロップがけのカキ氷を貪った

でもお姉さんはもう通らなかった


中学は休みがちとはいえ

なんとか卒業したし

練乳シロップがけのカキ氷も

卒業した


でも

縁側からは離れられない

高校へ進学しなかったから

両親は泣いている


でもね

あんな刺激を与えてきた

お姉さんが悪いんだよ


もちろん

とうの昔にお姉さんはいない

あの頃のお姉さんの年齢を

僕はもういくつも超えている


発泡酒が苦い


でもひとつ言わせてほしい

お姉さんが駆け抜けた目の前の道は

ここらの大地主である

うちの私有地なんだよね


だから僕はこうして

縁側に座って

あの日みた光景が再び訪れるのを

ひたすら待つ

権利があるんだよ


見たい


ワンサゲーン

もう一度





「これさぁ」

「はい編集長」

「これ」

「はい編集長」

「タイトル」

「タイトル…ですか?」

「なんでこんな80年代っぽいの」

「だって実際80年代の」

「実話なの?」

「そうじゃないですけど」

「どうしてもこのタイトルにしたかったの?」

「どうしてもこのタイトルにしたかったです」

「正確には90年代前半だよね」

「まぁそうともいいます」



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本稿はyuka_apple_e様へ私がお題を投げさせていただいた作品に対し、同じお題で取り組んだものです。

yuka_apple_eさんのような甘酸っぱい青春ではなく、生ぬるくて薄気味わるい青春のようなそうでもないような作品でごめんなさい。

yuka_apple_eさん、ありがとうございました。



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