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『たかいたかい』


物心がつく前からだから

そりゃ当然はっきりとは

記憶にないけど


それでもとっても楽しかったのは

とても印象に残っている


あんまりやりすぎると

事故の懸念もそうだけど

脳に影響があるんじゃないかとか

ママのほうが心配するくらいで


小学校も4年生になる頃には

僕もさすがにパパに

たかいたかいをねだることはなくて


よく見たらパパは

身長が185センチもあるから

ほんとに高いんだよね


そしていま高校1年の冬

僕はパパの身長を抜いたよ


あなたの子供は

あなたよりもっとたかいたかいが

好きになるわねなんて

ママは喜んでいる


もちろんパパも喜んでいるけど

やっぱり身長を抜かれたことが

ちょっと悔しいみたい


さすがにお互いに

たかいたかいはできないから

相撲を取ってみようって

そんなことをパパが言ってきた


もう若くないんだから

怪我とかしないでよって

入念に準備体操してねって

僕は伝えて


それから近所の公園の砂場で

子供たちがいない隙を狙って


何度取り組みをしただろう

勝ったり負けたり

もうほんとうに結果は五分で


いつの間にか日が暮れて


行司役のママでさえ

へとへとになっている


そろそろ帰ろうかって

そしてシャワーを浴びて


今夜の夕食は

どこかで済ませようって


そんな団欒って

どこにでもあるのかな




僕には友達がいない


学校には行っているけど

誰ひとりとして

話す相手がいない


最初はがんばって

交流を試みたけど


なんだかおまえはズレてるって

みんなが言うから

心が折れてしまって


だから僕には

パパとママしか

いないんだよ


これから先

パパは僕より

相撲も弱くなるだろうね


ママだっていつまでも

毎日僕に料理を

作ってくれるわけじゃない


そんなことはわかっている


だけどいいじゃないか

まだ僕は高校生なんだから


卒業後の進路も

なんとなくだけど

イメージしているよ


高校を卒業したら

僕はパパの勤めている会社に

入れてもらおうと思ってる


パパにはまだ相談していないけど

なんとかなるでしょ


そしてパパよりも出世して

パパの給料を

僕は必ず抜くんだから


いつか会社のオフィスで

パパのことを

”たかいたかい”って

やってあげるんだ


そんな平凡な夢で

僕は満足だよ


僕ってごくふつうでしょ?

ズレてないよね?



























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