『カンバンの時間になって』
「あたらしいコかあ、じゃあお尻を触らせてごらんなさい」
そのときアタシはまだ何にも知らなかったので
おどう(常連)の言うとおりにさせた
おどうはすすけた千円札を1枚アタシに差し出した
カンバンの時間になって
アタシはバッグを肩にかけ店を出ようとする
おどうはまだいちばん奥
とはいっても逆L字型で5つしかない
いちばん奥の席に浅く腰かけたまま
無駄なこだわりのコニャックをロックで飲んでいる
アタシが雇われている店はほんとうに狭くて
そんで
そんな店がまるで旧い公営団地のように
延べ四、五十も川べりに沿って建っていて
ああ
店の名はママのなまえ
みどり
みどりはその"公営団地"の2階
川は緩やかにカーブしていて
さっきも言ったけどその川べりに沿っているから
アタシたちの店も弓のごとく連なっていて
とにかく
アタシが店を出たらそのちょっと背後で
ママがおどうをなんとか言って
「あんたあの子で100人目だね、尻、尻よ!」
どうやら光栄なことに
おどうの尻触りはアタシで
ちょうど100人目だったらしい
(カウントしてんのかよ)
アタシはおどうじゃなくて
ママ
みどりのママに興ざめした
(カウントしてんのかよ、ちいせえオンナだな)
そんなことを考えている間に
ある種の嫉妬がピークに達したママは
酔いどれのおどうを
川に突き落とした
もがいてはいるが声は響かず
ぴちゃぴちゃとするおどう
われがしたことにも関わらず
状況を飲みこめていないような(フリの)
ママ
アタシは足早にその場を去った
明日から資格試験の勉強でも始めようと思う