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稲垣吾郎さん『多重露光』

一昨日、楽日を迎えた稲垣吾郎さん主演『多重露光』。
作・横山拓也氏 演出・眞鍋卓嗣氏。日本青年館ホール。
私は先週観てきました。

「多重露光」とは、カメラ撮影で同じフィルムのコマに2回以上写してしまうこと。
劇中で、そのシーンも出てきます。
吾郎さん演じる山田純九郎(すみくろう)は、写真館の2代目店主。
カメラが好きな吾郎さんにははまり役ですが、劇の内容はけっこう重めのものでした。

開演5分前までは、客席からの写真撮影OK。
舞台は写真館とその庭という設定です。
戦場カメラマンでベトナムに行ったきりの父(相島一之さん)に、純九郎は会ったことがありません。
そして留守をまもり、写真館店主として働いてきた母(石橋けいさん)からは、勝手な期待を押しつけられ、少年時代を過ごしてきました。

母は、街の人たちを撮ることで生計を立て純九郎を育て、地域のみんなからもとても慕われていたのに、いつも、こんなふうに言っていたのです。
「私みたいにはならないで。生涯かけて、撮りたいものを見つけなさい」
そんな母は、父の帰りをずっと待っていましたが、ある日を境に生気を失い、一週間ほど休んでいたことがありました。
「パパが死んだの?」と純九郎は聞きましたが、次の日からはまた、もとの母にもどりました。
そしてその母も…もう、亡くなりました。

僕は……撮りたいものを撮らなければいけない」
でも、それって…なに?
母の言葉が、純九郎の心を苦しめています。
「……親からの言葉に、僕は呪われている」

幼なじみで隣に住んでいる浩之(竹井亮介さん)や、いまは中学校教員をしている理子(橋爪未萠里さん)は、純九郎のことを思ってくれています。
(おせっかいで優しい浩之役、まさに竹井亮介さんにぴったりだと思いました。うまかったなあ!)
理子のおかげで、中学校の行事を撮影する仕事ももらっているのに、純九郎はやる気がなく、現場では生徒たちよりも、植物なんぞを撮っているのです(お花好きの吾郎さん笑)
そんなふうに、ぱっとしない日々を送っている45歳の純九郎の元に、ある親子が、写真を撮ってほしいと訪ねてきます。美しい母親と、繊細そうな息子。

純九郎が少年のとき、毎年、家族写真を撮る一家があり、その「愛にあふれた家族」は純九郎の憧れでした。
訪ねてきた女性は一家の“お嬢様”だった麗華(真飛聖さん)。
麗華は夫と別れ、息子の実(ダブルキャストで、私が観た回は杉田雷麟くん)と人生を再出発させるので、その記念に写真を撮りたいというのでした。
ふたりと話をしながら、そしてシャッターを切りながら、純九郎は、いつになくハイテンションになります。
純九郎は、なにを求めているのでしょう。少年時代に欠落していると感じていた家族の愛。彼はそれを手に入れたいと、思っているのでしょうか。そして…。

純九郎の身勝手が起こしてしまったトラブル。
また、死んだと思っていた純九郎の父は…?

人と、人が、想いと、思いが、幾重にも重なる、多重露光。
胸にしっかりと、焼きつけられた舞台でした。

終演後の鳴りやまぬ拍手とスタンディングオベーションは、劇の濃密さと演者の方々の熱が、客席の隅々まで伝わっていたことをあらわしていました。
舞台俳優としてもすっかり安定していらした吾郎さん、来年はどんな舞台をみせてくださるのでしょう。とてもとても楽しみです!

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