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情熱に喰らわれる『月と六ペンス』


こんにちは、ひのとです。

今回は心に残った外国小説、『月と六ペンス』をご紹介したいと思います。


▼『月と六ペンス』導入


(物語は主人公の『私』の一人語りで進行する。)

『私』はある日何の面白味もない人物、チャールズ・ストリックランドと出会う。

ありふれた会社員、平々凡々な家庭人的印象のみを私に残していたストリックランドはしかし、或る日素っ気なく意味の知れない手紙ひとつと妻子を残して失踪。

この誰もが予期せぬ事態に、夫を愛するストリックランド婦人から請われた私はイギリスからパリへと渡ったストリックランドの足跡を辿り居どころを突き止め、失踪の理由について彼と対話を果たすもストリックランド曰く「絵を描くため」の一言。

家庭に戻って欲しい婦人からの悲痛なメッセージを、いくら伝えて打てども響かぬ人非人的なストリックランドに、40歳をこえて画家になって成功出来ると思うのかと非難する私、

対して当のストリックランドは、

「俺は描かなくてはいけない、と言っているんだ。描かずにはいられない。もし川に落ちれば泳ぎの上手い下手は関係ない、岸に上がるか溺れるか、だ。」

とただの心を私にぶつける。

彼の内に無闇勝手に沸き起こる情熱への苦しみと、家庭への無感覚を感じた私もまたストリックランドを罵倒したのち、ありのままの仔細を伝えるべくストリックランド婦人の待つイギリスへと帰路に着く…


▼感想(※ネタバレを含みます)


とにかく、ストリックランドにフォーカスが当たり始めた頃からのむき出しのストリックランドという人間が、稀に見る最低さ。

ただ、それは仕事上大事なポストに着き自己で選択し妻子を持ち家庭を作った人間に対する評価で、表現者に生まれてしまった苦しみを肉々しく感じるような描写が散在する文章の中では、正解も終わりもない戦いへ極貧で病気にかかろうが誰にどれだけ痛罵されようが、狂おしい情熱と向き合い続けるある意味えげつない純真さもストリックランドに感じます。

私とストリックランドはその後、才能は無いけれどよく売れる絵描きのストルーヴ氏とも交遊関係を持ちますが、しかしそのストルーヴの奥さんがストリックランドに恋して自殺を図ったり…

何故かもてるストリックランド。

どうしようもない人でなしであるのに、不思議と人を魅了する人間、ストリックランド…

彼の最期は劇的に南の島で幕を閉じます。

タヒチへと移ったストリックランドのその後を語る私の言葉に、

生まれる場所をまちがえた人びとがいる。彼らは生まれた場所で暮らしてはいても、いつも見たことのない故郷を懐かしむ。生まれたときから異邦人なのだ……
……ときどき、訳もなく懐かしい場所に行き着く者がいる。やっと故郷を見つけたと彼らは思う。そしてそれまで知ることもなかった土地に落ち着き、全くの他人だった人びとと暮らし始める。まるでずっと知っていたかのように。その地で彼らはようやく安らぎを得る……

という、印象的な一文があります。


とにもかくにも情熱に喰らわれたストリックランドの生涯。

同じような愛しい苦しみを持って生まれた方に、読んでみて感じて欲しい素敵な作品でした。

ぜひ!



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