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27.幸せを掴んだ瞬間に…

プロローグから続いています。


可愛い女の子が生まれた。
これまでの怒りや不安が嘘のような日々が待っていた。

大学も3年生までに単位を取っていたから、
大きなお腹を抱えながら出産の直前にあった最終試験を受け、
4年間で無事に卒業していた。


あとは育児に専念するのみだ。

毎日どころか毎瞬、毎瞬見続けても、
可愛い娘に飽きることはなかった。
毎日数百の写真を撮り、散歩に連れ出し、
これまでに感じたことの無いような温かい時間を過ごしていた。

パニック障害という文字も私の中から消えていた。

どこに行くにも何をするにも、
不安も恐怖も全く感じない自分というものを久しぶりに感じていた。

もうパニックは終わった。



娘の腰が据わる頃には、
同じ位の月齢の子を持つママ友も近所にできた。
児童館へ行き、公園へ行き、お弁当を食べ…
こんなにも太陽の日差しが心地いいものかと舞い上がるほどだ。
この子は私を助けに来てくれたのかも知れない。
そう思った途端、私の何かにスイッチが入った。

普通のお母さんという称号が欲しかった私は、
育児書、育児雑誌、ネットを読み漁るようになった。
そして、こんなに「可愛い我が子」と感じさせてくれるこの子を、
絶対に私のようにしてはならなかった。
やっと掴んだ幸せを失うのが怖くなっていったのだ。
なんでもない日々が幸せというものも初めて感じていた。
この子だけは辛い想いも苦しい想いも何もかもさせてはならない。
それに拍車が掛かるように、私の何かが変化していく。


伝え歩きが始まる頃、私は娘を見張るようになる。
理由はたった一つ。
この子を私のようにさせてはいけない。
そんな呪文が私の背後を忍び寄る。
水を出しては怒鳴り散らし、食べこぼしをしては手を叩く。
そんな日々が始まった。

熱を出せば心配をし、夜中の病院に何度も駆けつけた。
傍から見たら、普通の幸せな家族だっただろう。
相変わらず公園や児童館にも連れて行ってた。
人がお祝いに駆けつければ、当初の笑顔の母子に戻る。
そして人が帰り玄関の扉が閉まると、
再びスイッチが押されてしまう。
私のような子にさせてはならないというスイッチが
パタンと扉が閉まる度に押されていく。

1才になる頃に娘の笑顔が消えていった。
笑顔と引き換えに、
家中に響き渡る怒号と泣き声に変わっていった。
夫が帰ってきても収まらない。
この子を私のようにはさせてはならない
という見えない使命が私を突き動かしていた。

誰に頼まれたわけでもない使命。
失う怖さも相まったどこからともなく忍び寄る使命。


まるで毎日の日課のように、
しつけと言う名の怒号と泣きじゃくる娘の声が響き渡る。

どうして分からないの?
どうして分かってくれないの?
私はあなたのためを思ってやってるのよ!

かつてどこかで聞いたことのある台詞を
私の口から飛び出すようになっていく。
でも止められない。
スイッチが押された私はスイッチの切り方すら分からない。
娘は泣きじゃくり、「ごめんなさい」と謝るまで怒号は続く。
そして夫がかばうたび、さらに火に油が注がれる。

どうして私を悪者にするの?
私はこの子のためを思ってやってるの!

夫は娘を連れて別の部屋へ。
そして、怒りが娘への嫉妬に変貌していく。


あんたは良いよね!
生まれたときから両親が揃って何不自由なくて!
2歳にも満たない娘に対し、
毎日のように繰り返される光景。


この子が私のようにならないよう…
そんな願いなはずだった。
なのにどうして。
自分に対する悲しみと怒りで、
毎晩娘が寝静まると泣きながら詫びた。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
あなたは何も悪くないの。
ママが悪いの。。


日を追うごとに、
自分が何をしたいのか分からなくなっていった。
それでも止められない怒号に切ることのできないスイッチ。
自分自身を見失いかけていた。

あれだけ幸せだったはずなのに。
私はこの子を幸せにしたいだけだったのに。
どうして。


そして、突然やってきた。
スイッチの入った私のブレーカーがパタンと落ちた。



つづく


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