(76)ベルギー 遠くて近い国 その5 Annaちゃんの涸れない泉
今の自分の状況にふと疑問を持って立ち止まった時、幼い頃の自身の習性や趣向を思い起こしてみると、意外と軌道修正の糸口や発露が見つかるものなのかもしれません。
紆余曲折ありながらアクセサリー作家となったリア・スタンも、一人で黙々とイラストを描いていたり、ファッション雑誌をみたりするのが好きな子供だったと話してくれたことがありました。
また、以前ブログにも書いた、フルーティストのゆかりさんも、幼い頃、紙で横笛を作ってはレッスンを受けることを夢見ていたと語っていました。
makipatricia.blog.fc2.com/blog-entry-5.html
Annaちゃんは、幼稚園の頃から、次の日何を着るか決めないと寝られないという、服に対するちょっとしたオブセッション(強いこだわり)があったそうです。
毎夜、次の日に着ていく服を絵日記に記録し、万全の準備をしないと安心して眠りにつけなかったとか。
思春期には、父親が出張先のパリで買ってきてくれるボーグやマリ・クレールなどといったファッション誌を穴が開くほど熟読していたそうです。
その個性を活かしてあげたいと考えた両親の勧めもあって、ブリュッセルの国立芸術大学「ラ・カンブル」に進みました。
Annaちゃんのお父さんは商社マンで転勤も多く、2000年初頭、いわゆる動乱期のケニアに家族で住んだこともあり、政治情勢が不安定になっていく中、取るものとりあえず出国した経験もしています。そんな彼には、子供達には落ち着いた環境で教育を受けさせ、自分の意志で方向性を見つけられる仕事に付いて欲しいという思いがありました。
結果、Annaちゃんはファッション・ブランドオーナー、弟はキネオロジスト (日本でいうところの整体師に近い キネシオロジー - Wikipedia ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC )
妹はパティシエールという天職に就いています。
私がAnnaちゃんと親しくなったのは、ちょうど彼女の大学卒業前後、今後の活動の場をどうするか試行錯誤していた頃です。
他のブランドでスタージュ(インターン)をしたり、ブリュッセルの日本食レストランでアルバイトしながら友達2人と共同でユニセックスのファッションブランドを立ち上げたり、活動はしていたものの上手く的が絞り切れない時間を過ごしていました。
その合間にアルバイトとして私のパリでの買付をサポートしてくれたのです。
合格率10%の難関を突破して「ラ・カンブル」に入学した20名の同級生も、卒業時には数人になっているほど、その道を続けていくには葛藤の多いファッションの世界。
その中でも彼女はラ・カンブルの恵まれたネットワークを活かして、毎年1~3か月は名だたるブランドで貪欲にスタージュも経験し、学士課程・修士課程合わせて6年間頑張り通しました。
ただただ「究めていきたい好きなことだったから」「寝食忘れても没頭できることだった」シンプルにそれだけだったそう。
彼女曰く、「まずは大きいメゾンに就職し、著名なデザイナーの下でキャリアを築いてから自分のブランドを立ち上げるのがsmartな(賢い)やり方だと思うけど、最終的に自分のアイデアが通らないのは受け止められなかったの」。
「自分がデザインしたものであっても、修正が入り自分の名前が表にでることはない」、それはスタージュであれば妥協しなければならない部分でした。ただ卒業後の進路を考えた時、彼女にとっては耐え難いものだったようです。
無名の新人が一人で自らのブランドでキャリアを作っていく大変さは骨身に染みているはずですが泣き言は言わず、持ち前の明るさと培った人脈の助けを借りながら奮闘してきました。
すんなりと今のブランドポリシーやスタイルを見つけたわけではありませんでした。
自分が重度の食物アレルギーを持っていること、地球環境問題に強い関心を持っていたことから、ファッションの世界でそれをどう昇華させていったらよいか、自分と真摯に向かい合い落としどころを見つけつつあるようです。先週ご紹介したアップサイクリングの発想はこのあたりから生まれたものの一つです。
時間を長くともにする中、私が年齢差を超えて意気投合できたのは、やはり彼女の芯の強さや心根の美しさに一緒にいる時間が尊いものに思えたからでしょう。
何が大切で何をそぎ落としていくべきか、もがきながらつかんできたここ数年の彼女の成長ぶりは目覚ましく、今では私の方が励ましてもらったり、情報をもらったりしています。
(※次週に続く)
ちょっとした幸せ (68)ブリュッセルの旧市街
ヴィクトル・ユーゴーが「世界一美しい広場」と言ったグラン・プラス。
この写真は先日Annaちゃんが送ってくれたものですが、
私が訪れたのは大掛かりな照明を使ったオペラのガラ・コンサートが行われたクリスマス時期と夏のオープンカフェでビールが楽しめる時期など数回。
8月のフラワーカーペットはまだ見たことがないので、いつか是非、と思っています。
「セルクラースの像」
これを手のひらで撫でると幸せが訪れるということで、いつも人だかりができています。