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いずれ忘れるきみへ【詩】

いずれ忘れるきみへ【詩】

きみが生まれたのは、錆に覆われた街の、冬のはじまり。
きみの顔は誰も知らない。きみの顔は頭の中でぼんやり霞んで、八重歯だけが柔らかに覗く。
きみに関して知っているのは、きみの声が産毛がざらりと震えるように低いこと。引きずる左足が砂を噛むこと。きみのその背を、硬い骨がまっすぐに貫いていること。
きみはぼくたちの前であらゆる言葉を話し、
(そりゃ今まで色々あったし、)
生きて、
(ずいぶん長いこと生き

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混線【詩】

混線【詩】

もうずいぶん長いことぼくは人間ではないようで、生まれたときはたしかみんなと一緒だったはずなのに、今ではもう薄く濁った境界線がみんなとの言葉を隔てているのです。ぼくはずいぶん足りなくて普通のことがよくできないので、映画館のポップコーンが貰いに行けません、化粧の仕方がわかりません、因数分解が解けません、列に並べないのでコーヒーを飲めずに立ち尽くしています。人混みの中で絶叫を飲み込んでばかりいたらみんな

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月山【詩】

月山【詩】

月にはひとつ月山があります。
灰色の大地の上にぽつんとひとつ月山があって、死んだらひとりでそこに行きます。
退屈な風景に嫌気が差したら、てっぺんで青い地球を見て、生きてたころを思い出したら、すべり台を滑ります。さみしくなったら、真っ暗なトンネルで眠りましょう。
自分の足音以外に音はなく、悲しくなって泣きじゃくっても、小声で歌をうたっても、誰にも聞かれずいられます。
月にはひとつ月山があります。

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