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小声コラム#39 春色の風景

朝起きたら春のせいで、
中学の桜の景色がよく甦ってくる。

たしか中学3年、
新しい1年生になる子たちの入学式の日
(そういえば弟がそうだった)

バスケ部だったけど駅伝部にも属していたので、
入学式で部活はなかったけど、駅伝の練習はあった。

練習おわり運動場にある桜の木の下に寝そべって
ダラダラとみんなでストレッチをしていた。
同級生5人くらい、仲が良くてずっと笑っている。

陸上部を担当する新任の先生を呼びとめて、
しょうもない話をえんえんとした。
彼氏はいるのか(いらっしゃった)、モテるのか(失礼)
思春期満載の恥ずかしい質問ばっかりだったように思う。

花びらがたくさん舞ってたから、
記憶のなかでは一面に桜色に染まっている。
映画みたいに、美化されたあたたかい記憶。
けど、本当にそんな春だった。

その感触は今になっても、いつまでも春にあらわれて
治ることのない些細な病みたいに
ちょっとだけチクリとして、そのくせ優しい。

あの桜一色の日からどれだけ時間が経ったのか
数えればすぐわかるけれど、
わかるのは時間の形をした数字だけ。

その数字に見合うだけの、自分の形はないみたいで
何度、咲いて散ってを繰り返しても
あの日の桜色に舞い戻ってしまう。

電車に乗ってる制服をみると、
まさに今その時間を過ごしている人たちなんだなと、
ぼんやりと流れた時間が見えた気がした。

制服の君たちが記憶に刻む風景は
どんな色をしているのだろう
絶対に共有できない、春の色


#39  春色の風景

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