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またひとつ、この世界で好きなもの

週末、来日している英国ロイヤルバレエ団の公演をみに横浜へ。きっと感動するだろうなあと思った「眠りの森の美女」のローズアダージョはそれほどでもなく、そのかわりジョージ・バランシン振付の「シンフォニー・イン・C」という作品に釘付けになった。

ジョージ・バランシンは有名なバレエの振付家。名前は知っていたけど実際の作品をみるのは初めてだった。この人のすごさを上手くまだ言葉にできずにいる。端的に言うと、音が踊っている。旋律と動きの調和が素晴らしくて、そしてそれを踊りこなしている踊り手にも鳥肌が立った。

帰り道もずっと舞台のことが頭から離れず、フワフワしたまま家に帰って、帰宅後Youtubeで作品を見返して、次の日も「セレナーデ」というバランシンの別の作品を。

そして、バランシンの半生について調べた。ロシア生まれのグルジア人。アメリカンバレエの祖であり、作曲家のストラヴィンスキーの盟友であり、バレリーナと次々に恋に落ちる、恋多き罪な男、そんなことを。

36で離婚した後、結婚していたらしづらいことをしようと決めた。まるで20代の頃のように朝まで飲んだりフラッと旅に出たり習い事を始めたり、やりたかったことを思いつくがままに。ただ、好き勝手に数年を過ごしたら、やりたいことをし尽くしてしまわないか、と不安に駆られた。自分の時間がたっぷりあるのは素敵なことだ、だけど、あったらあったで少し怖くなる。やりたいことをやり尽くしてしまったら、その後いったい何をして生きていくんだろう?

それから私は空白を埋めるようにコルクラボというコミュニティで精力的に活動して、その活動の最中に思いがけず妊娠をして出産をして、それからというもの、時間は無尽蔵どころかすぐに消えてなくなってしまう、ずいぶんと儚いものになった。

ふとやりたいことがなくなってしまうかもと不安に駆られたかつての自分を今思い返して、ちょっと苦笑い。そして声をかけたくなる。

大丈夫大丈夫、今日もまたひとつ、この世界で好きなものをみつけたよ、と。

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