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キースジャレット「マイファニーバレンタイン」/いいコンテンツはなかなか言語化できないということ

「コルクラボ」という株式会社コルクが主宰しているコミュニティの場があり、今年の1月からメンバーに入れてもらっている。私はそこで誰かにコメントをする時は必ずその方の自己紹介を見るようにしていて、佐渡島さんがキースジャレットを好きというのもそこ経由で知った。
佐渡島さんの自己紹介をみるのは確か昨日で3回目。毎回そのたびにキースジャレット、私も好きだな、最近聞いてないけど、と思っていた。

ただ昨日、いただいたコメントに返信するにあたり、佐渡島さんの自己紹介を3たびめに眺めていたら、ものすごく明確にひとつの曲を思い出した。正確に言うと「マイファニーバレンタイン」という曲の、テーマにもアレンジにもいっさい関係ないイントロの部分。その部分を一音一音正確に、キースジャレットが口ずさんでいる部分の声の感じや観客の咳払いまで、一瞬で完璧に思い出した。

この曲を初めて聞いたのは確か大学生の時だ。作家の山田詠美にとにかく影響を受けていた私は、当時、山田詠美の小説やエッセイに登場するものを片っ端から試している最中だった。キースジャレットも、彼女が好きだから、という理由で手にとった。
彼女経由で知った大抵のものは「知った」ということに満足して、その後再び手にとることはなかった。ただキースジャレットは、というかこの曲は違った。初めて聴いた時から夢中になった。1曲を通しできくことはあまりなかった。テーマが始まる前のイントロの部分だけを、とにかく偏執的に何百回も聴いた。

何がいいのか、と聞かれるとうまく説明できない。

メロディがいい。
ライブ感がいい。
キースジャレットの低い、唄声がいい。

端的な理由はいくらでもあげることができる。ただなんでこんなに心が揺さぶられ、そしてものすごく久しぶりに聞いている今も、何故動揺に近いくらい心が震えるのか、さっぱり分からずにいる。

いいコンテンツとは何か、というのをコルクラボでここ1ヶ月考えてきたのだけれど、案外魂を鷲づかみにするものって上手く理由が説明できなかったりしないだろうか。「面白さ」の要素を分解することはできても、何故それを熱烈に好きか、を論理的に説明するのはとても難しい。

最近一番ぐっときた文章に、「田中泰延が会社を辞めたほんとうの理由、迷走王ボーダーとブルーハーツ」という田中泰延さんが書かれた文章がある。

自分が最も愛する何かの中に、最も愛する何かが突然現れる。あれから30年経って、その驚きと、その時抱いて、そして今この瞬間にも抱いたままの感情を、僕は書き表すことができない。
それが、会社を辞めた理由だ。書き表すことができないから、残った人生の時間で、なんとか書き表したい。そう思ったのだ。


「田中泰延が会社を辞めたほんとうの理由、迷走王ボーダーとブルーハーツ」
https://reminder.top/760847469/

今、全く同じようなことを思っている。なんでこの曲をここまで好きなのか、きちんと言語化できるような書き手になりたい。

ただ一生かけても言語化できない、そんなコンテンツこそが実は真のいいコンテンツなんじゃないかとも、心のどこかで思っている。



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