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小説【まち子の指先】(3)
急
黄色い銀杏の葉が強い風で舞い、吹き溜まりに積み重なっていく。まち子がバケツを抱えて店から出てきた。バケツの中のススキが朝の光を浴びて輝いていた。夏にずいぶん痩せてしまったまち子は、もとに戻ったようだ。ススキの陰にあるまち子の右顔はとても柔らかい表情だった。オフィスにいた人たちがおはようございます、と挨拶してくる。女性たちは日々親切になっていった。ほんとに痩せたなあ、と羨ましさを声に
小説【まち子の指先】(2)
破
前日から降り続いた雨が水たまりをつくり、地面に凹凸があることを教えてくれる。昼間の太陽もすっぽり分厚い雲に隠れている。交差点に赤いライトを点滅させたパトカーとひしゃげた車がいて、ほぼすべての通行人が立ち止まって覗きこむ。行く手を阻まれた車たちのいらだちが細かい動きに現れて、歩く人たちの気持ちを落ち着かなくさせる。交差点からワンブロック先の不動産屋の看板が雨粒を滴らせていた。 不動
小説【まち子の指先】(1)
<はじめましての言葉>美月麻希です。はじめてnoteを使います。【まち子の指先】は同人誌『白鴉』29号に掲載した短編小説です。作者本人は「0人称」小説だと思っています。2016年全作家文芸時評賞の最終候補になりました。「序破急」の構成で、まずは「序」からです。よろしくお願いします。
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序
風になびいた長い髪が鼻先をか