映画評#2 「図書館戦争」実写版

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 長い。不要不急が禁忌となってこのかた、夜のなんて長いことか。
仕方がないので映画を観る。こんなときのために私のAmazonプライムビデオのウオッチリストには、後で見る用タイトルがずらっと並んでいる。

 分かっていたことだけど私はだいぶ変わっているので、ウォッチリストにもお笑いとかアニメとか逃げ恥とかのカジュアルなタイトルはひとつもなくてうんざりする。どうしてこう、疲れた週末の脳みそをやさしく休ませてくれるような、普通のチョイスができないのだろうか。

 とりあえずリストの中で一番ファンシーだったのが「図書館戦争」だったので観ることにする。「SP」でテロリスト相手の大立ち回りを、「永遠のゼロ」で太平洋戦争の辣腕パイロットを演じおおせた岡田准一にとって、もはや都会の図書館など戦場とするには狭すぎるのではないだろうか……?などと完全に余計な心配がよぎる。「岡田といえばアクション」と言われてもう何年になるだろう。彼はすでに歴史物、戦争物のスクリーンに欠かせない大俳優になりつつあるが、今でもWAになって踊ったりするのだろうか。

 さてここからお話していく私の「図書館戦争」評は、およそ一般の感想とは全くかけ離れていると思う。だから読んでくれる方々におかれては、どうか参考にしないでいただきたい。ただこうやって思うままに本や作品を感じようとする人間の、その自由を守るために闘った図書館隊員たちに免じ、どうか私の奔放な映画評をお許しいただければと思う。



 なんといってもこの、本を検閲や焼却から守るために戦闘行為をする、という、一見SFコメディめいたシチュエーションが、終始観る者を皮肉ってくるのである。
「なんでたかが本のために銃の雨の下で命の奪い合いなんかしてんの?」観る者すべての心に浮かぶ平凡な問いは、しかしそのまま、「じゃあお前はいったいどんな大義があって散々他人の命を削り、迷惑を振りまいて生きていられるのか?」という強烈な反論となって跳ね返ってくる。
「図書館戦争」は、ほんのくだらない価値のために命と心を奪い合う、すべての争いへのアンチテーゼである。たかが1冊の本、漫画、雑誌、それらと全く等しく、私たちが正義と呼び武器を手に取る理由はおよそ小っぽけではないか。実にくだらないものばかりではないのか。


 本作は全編においてこの根源的にして風刺的なテーマをもつ(と私は思っている)が、映画としては図書館隊員の奮戦と成長を軸に、自衛隊が全面協力したという迫真の戦闘シーンを楽しめる正統派エンターテインメントにまとめられているという点において優れている。

 一見、風変わりな設定のバトルアクションものである。しかし物語は決して奇をてらうことなく、実直に収束してゆくだろう、と安心して観ていられるのは、主人公の岡田准一、図書館隊司令役を演じた石坂浩二の安定感の果たすところが大きいと思われる。また意志の強さを持ちながらも透明感を失わない女性を数多く演じてきた榮倉奈々にとって、本作のヒロインはハマり役と思えた。


 こうしたハチャメチャ世界観をベースとするSFは、日本よりも米国の得意とするところと思いがちだが、「図書館戦争」は、日本だからこそ成立しえた絶妙の隠し味が旨い映画なのだ。日本人ならではの奇妙な慣習、日本人だから理解できる美学、日本文化がそうさせた過ち。そうしたものを見逃すことなく掬い取った稀有な多面性をもつこの作品を、じっくり鑑賞できたことは仕合せなことだと感じる。


映画「図書館戦争」(2013年 原作:有川浩)
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