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老いる

老いてきた。

間違いなく、老いている。そりゃそうだ、時間が経てば絶対に老いる。

シミが増えたとか、シワが増えたとか、たるんできたとか、痩せにくくなったとか、すり傷が治りにくいとか、髪がパサついているとか、とにかくもう、パッと見るだけでもあれこれすぐ出てくる。

しゃーない。どんだけ美人でも必ず老いるし、見た目の老化はどれだけ金をつぎ込んでも止められない。自分はもともとあまり気にしないし、血眼になってスキンケアをするようなタイプではなくて良かったと思う。

コツコツ、ケアをしている人を見ると素直にすごいと思うし、きれいな人を見ると見とれてしまうけれども。自分は自分、それでいいのよ。


ただ、老いを感じる中で、ひとつだけショックだったことがある。


耳だ。
音がおかしい。



私には「絶対音感」がある。

聴いた音が、ドレミファソラシドになる。
3歳になる前からピアノを習い始めて、あまり記憶はないけど気に入らない楽譜は投げて、ピアノの下で籠城していたらしい。私が先生ならそんな子ども帰ってほしい。あと、家に帰ったら父親が数千枚のレコードやCDの中で、クラシックや洋楽を聴いていた。そんな環境のおかげなのかなと、今では思う。

保育園で年中のとき、セーラームーンのオープニングテーマをピアノで弾いていたら、担任の先生に「なんでマキちゃんはピアノが弾けるの?」と聞かれた記憶がある。

いや、どういうこと?聞こえる音をそのまま弾けば良いだけなんだけど、なぜ?と、先生を含めみんな弾けないのが不思議だった。



そんな、私のアイデンティティとも言える絶対音感が、揺らいできたのだ。



いつものように、「あれ弾いてみよ~」とピアノのスイッチを入れる。Bluetoothでスマホを接続して、アップルミュージックを起動。曲をかける。弾いてみる。


ん?

合わない。いやちょっと待って、当然のようにこの音だと思って弾いたら、ずれてる。合わない。マジか。


初めての感覚。意味がわからなくて、そのまま流れる音楽とピアノの音が不協和音になっていて、パニックになる自分の心のようだった。

もう、言葉が出ない。
はてなが浮かぶ。



いろいろなことが「できなくなって」きた。

走れないし、視力は悪くなっているし、すぐ息は上がるし、体調を崩したら長引くし、言葉は出てこないし。おい大丈夫か。


ここまで考えて、老いではなく何らかの病気が隠れていたらどうしよう、なんて思った。まあ、音が外れるようになったからと言って死にゃしない。大丈夫大丈夫。



でも。
でも。

36年間「すごい」って言われてきた自分の特技でもあり、自分そのものであり。それが揺らいだ、というのは大変にショックだった。

音が全部わからないわけではないし、いきなり全部弾けなくなった、というわけではないので、もしかしたら毎日数時間ピアノを弾いたり、リハビリ的なことをしたりすれば元通りになるかもしれない。

一人でカラオケに行って思う存分、採点するのが大好きだが、歌もアレだったらどうしようと思うとなかなか行けない。


これも老いかあ、と、少しずつ変わっていく自分を受け入れる。

まあ、指は動くし、ピアノは弾ける。
耳が遠くなったわけではないし、音楽は聴ける。

受け入れる、自分を。

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