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三題噺① 朝食は殺戮

https://shindanmaker.com/58531

 昔から小説を書いてみたくて、でも踏ん切りがつかなくて、ずるずるここまで来た。でもこのままだと一生書かないままだな、と思い、何か気軽に始められないかな、と思ってやってみました。

 「三題噺のお題メーカー」というのを使わせてもらいました。お題がランダムなのっていいですね。「面白くない?えー、でも、俺が選んだお題じゃないしな」みたいな言い訳ができるので。で、出たお題↓

「部屋」「屍」「きれいな殺戮」
きれいな殺戮って何??まあ、頑張ります…

———

 朝日がカーテンを透かして、フローリングの床を洗っている。ふしぎな模様が生まれては死にを繰り返している。もう少しで思い出せそうな記憶のように、一つ一つの形は定まることがない。
 あの子はすでにベッドを抜け出して、部屋の隅に置かれたダリアに、じょうろで水を注いでいる。ダリアは重そうな頭をもたげて、ほんのかすかに揺れている。

 あんなに水をやったら腐ってしまう。

 ぼくは、散らばった服の中から深い紺色のTシャツを探りあて、袖を通すとベッドから這いだした。
 テーブルの上ではベーコンエッグが冷え始めていた。黄身の上には、白い膜がうすく張って、コショウが点々とかかっている。つるっとした膜と、その下にうっすらと示された黄色。

 思わずナイフを立ててしまった。黄身は半熟だった。深くどこまでも沈んでいくナイフを濡らして、黄身が溢れていく。皿が汚れてしまった。でも、もう取り返しはつかない。皿の白が、押し寄せる黄色の海とせめぎあっている。ベーコンの端が、座礁した船のへりのようにほんの少し突き出している。じきにみな飲まれてしまうだろう。すべてを汚した黄身の上を朝日が流れる。ナイフの腹が光を飲んでまばゆく光る。

 朝食はきれいな殺戮だ。

 気がつくと、ぼくは真っ赤な血の海に佇んでいた。腕の中では、あの子の屍がゆっくりと温もりを失い始めていた。

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