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「愛を読む人」(2009)

「君に読む物語」という映画を薦められたことがある。そろそろ観てみようと思うに至ったが、観ているとなんだか思っていたのと違う。何でだ、と思ったら違う映画だった。それが「愛を読む人」との出会いだった。

セクシャルな描写もあるので親子での鑑賞などは控えた方がいいかも知れないが、かと言って高校生くらいなら観賞をきっかけに良質な思索がはじまるかも知れない。

映画は、戦後のドイツを舞台に壮年を迎えた男性の回想録の形を採っている。主人公が15歳の頃、20歳ほど年上の女性に助けられる。お礼(少年期らしい下心を伴った)に迎い、そこから二人は親密な関係となる。(以下、ネタバレ?)

その女性は少年に本を読んでもらうことが好きだった。事に及ぶ前にも本を読み聞かせてもらうのだった。

歳の差ゆえのすれ違いはありながらも関係はしばらく続いたが、ある日を境に女性は少年の前から姿を消す。次に女性の姿を観たのは法廷の上だった。

少年は大学に進学し、法学を学んでいた。裁判見学の実習で、裁かれていたのがまさにその女性。少年は驚きを隠せない。

女性はホロコーストの看守の一人として勤めており、収容されたユダヤ人の虐殺に関与していたのだった。元看守たちはその女性が責任者だったと偽証、書類の筆跡鑑定が行われようとした、その時、女性は責任者であったと偽りの内容を認めた。

少年はなぜ偽りと判ったか。それは常に物語を読み聞かせてきたことと関係していた。女性は非識字者だったのだ。女性はそのことを恥として、本来負うべき以上の罪を負った。無期懲役だった。

少年は大人になり、法律家としての道を歩むことになったが、誰にも心を開かなくなった。しかし、ある頃からテープに昔読み聞かせた物語を吹き込み女性に送り始める。老齢になった女性も、そのテープを頼りに文字を学び、ついに主人公に返信を送れるようになる。

ーここで筆を止めよう。終わりはあまり心地よいものではないから。
大切な人に想いを伝えたいがために言語を学ぼうとする、純粋な学びの意欲というものに心を奪われた。そして、映画の内容とは逸れるものの、この女性の魅力的なこと。これを付言しておこう。


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