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#ショートショート
スナイパーの意外な使い方【毎週ショートショートnote】
「二時の方向、風速は15メートル、標的までおよそ500メートル」
スポッターの指示に合わせて僕は照準を定める。
ここはビルの屋上。早朝から忍び込み準備をしてきた。
「予測より風が強い」
とスポッター役の妻が言う。
僕らは夫婦でツーマンセルを組んでいる。
「わかってる」
僕は小さく頷く。
シモ・ヘイヘには遠く及ばないとしても、僕だって経歴は長い。それくらいわかる。
「ちょっと待って」
「え」
「標的
生き写しバトル【毎週ショートショートnote】
世は整形ブームである。
そして何事も流行るとマウントの取り合いみたいなものが発生する。
「さあ、今週も生き写しバトルが開催されます!どうぞみなさま、奮ってご参加ください!賞金はなんと1億円です!!」
生き写しバトル。通称"生きバト"は、そんな整形好きの人々の承認欲求を満たすために生まれた大会だ。
毎週、お題となる人物が提示され、その姿そっくりになれた者が勝者となり、優勝賞金1億円をゲットで
アナログ巌流島【毎週ショートショートnote】
僕たちのいる日本の島はすべてデジタル、つまり、二進法でできていると言ったら、信じてもらえるだろうか。
たとえ信じてもらえなくても、僕らの世界のあらゆる現実はヴァーチャルによって作り出されている。どんな感じと言われれば、VRゴーグルでオープンワールドのゲームをする感じ。
ただ、この世でひとつだけ本物がある。デジタルではない、完璧なアナログが。
それは……巌流島。
知っている人はアナログ巌流島
半分ろうそく【毎週ショートショートnote】
実を言うと、
いまあなたが読まれてるこの文章。
半分がろうそくで作られているんです。
簡単には信じてもらえないかもしれません。
半分がろうそくで作られた文章なんてこれまでご覧になられたことないでしょうから。
でもね。
これがあるんですよ。
いまあなたがご覧になっているのが、
まさに半分ろうそくで作られた文章なのです。
疑いを持たれる気持ちはわかります。
簡単に信用してもらえるとは思っ
グリム童話ATM 【毎週ショートショートnote】
「なんであそこの台だけずっと動かないの」
給料日のATMは混む、のはいつものことだが、一台だけまったく台から離れない人がいて気になった。
石化したみたいに動こうとしないから、一台分減ってしまうので待ってる方は苛々が募る。
「おそらく、グリム童話ATMにつかまったんだな」
「グリム童話ATM?」
「ああ、何万回かに一回、キャッシュカードを差し込むと突然グリム童話なぞなぞが出ることがあるんだよ。それが
オノマトペピアノ【毎週ショートショートnote】
ドッキリの企画で、世界的ピアニストを招待して、ピアノを弾いてもらうことにした。
ベーゼンドルファーのピアノという触れ込みで、僕らはオノマトペピアノを舞台に設置した。
このピアノ、ドレミじゃなくて、鍵盤を叩くとオノマトペの音が奏でられるように設計されている。例えばドならドキドキ、レならレロレロ、ミならミシミシみたいに。
スタッフの誰もがピアニストが驚くだろうと予想した。ちょっと弾いてみたらわか
草食系男子に教えられたこと【毎週ショートショートnote】
「あいつはやめておいた方がいい」
わたしの彼氏は草食系男子だ。
草食系っていっても、見た目はいかつくて、特に頭がごつごつしてて、必殺技は頭突き。これを喰らったらどんな男でも大抵一撃でのされてしまう。
彼があいつって呼ぶのは、ここらで有名な肉食系のティーと呼ばれてる男。みさかいなく女子のお尻を追っかけるので、わりと嫌われてるんだけど、がたいはわたしの彼氏よりずっと大きいし、顔は超イケてるし、
名探偵ボディビルディング【毎週ショートショートnote】
知人の応援でボディビル選手権の会場にきた。
掛け声をかけることは知ってて「腹筋板チョコ!」とか「脚がゴリラみたいだな!」とか、変わった言葉で表現するらしい。
で、僕も何か言わなくちゃっと思って、つい「よ!名探偵ボディビルディング!」と叫んでしまった。
会場の時が一瞬止まる。
観客の視線が集まるのを感じて「あっ、しまった」と思う。
またやってしまった。つい考えてることを口走ってしまう癖があ
噛ませ犬ごはん【毎週ショートショートnote】
ぼくの好きな食べ物は噛ませ犬だ。
これ以上の好物はないってくらい、最高に好き。
あいつらの命を食べるときのあの悔しそうな顔だけで白飯五杯はいけるね。
ナイフとフォークで切り分けると、きれいな肉汁が滴るんだ。
噛ませ犬にされたやつらの頭によぎる、あー俺騙されてたんだーとか、俺を出汁に使いやがってーとか、さ、そういう気持ちを思い浮かべるだけで、つい口元がニヤけちゃう。ぼくの悪い癖だ。
とくに目
大増殖天使のキス【毎週ショートショートnote】
ある町に通り魔ならぬキス魔が現れるようになった。
すれ違いざまに女性の唇を奪うという卑劣な輩で、町の人々はほとほと困り果てた。
キス魔の犯行は、手早く一瞬で行われる。たとえ熟練の警察でも捕まえることはできなかった。
このままでは町に若い女性がいなくなってしまう。
困った町の人々は教会に赴き、神に祈りを捧げた。どうか町を荒らすキス魔をなんとかしてください。『あい、わかった』という返事が人々
失恋墓地【毎週ショートショートnote】
「またこの墓石、右に動いてる」
〈〇〇家之墓〉と彫られた立派な墓石が、少しだけ右方向に動いている。誰かが動かしたというわけではない。変な話だが墓地で働いているとたびたびこういうことが起きるのである。どういう原理かわからないが、夜の間に墓石がひとりでに動くのだ。僕ら管理人は、朝になって移動に気づくと頑張って元の位置に戻す。ご家族の方々がやってきて、墓石が動いているのを見たら大変なことになるからだ。
立方体の思い出【毎週ショートショートnote】
「ねーこれ、わたしのアルバム?」
わたしは母親のスマホを勝手に操作しながら訊いた。
母は几帳面な性格で、写真を細かくフォルダにわけている。友達の写真、家族の写真、趣味の写真、等々。その中にわたしの名前を冠するものがあった。
「ええ、そうよ」
と母が台所からこちらを見ずに答えた。
やっぱりそう。わたしの生まれたときからの記録。
わたしは画面をスクロールしながら、一枚一枚自分の過去を遡ってい
音声燻製【毎週ショートショートnote】
「うぉぉぉぉ!!!」
「燻されるぅぅぅぅ!!!」
音声たちは口々に悲鳴を上げた。
「ドは大丈夫か」
とミが聞くが、ファが横で首を横にふる。
ドは一番低い音だから、真っ先にあの桜チップの煙にやられてしまったのだ。
ラがソの後ろで恐怖に震えている。
とにかく煙がすごいのだ。そういうミの体もプスプス音を立て始めていた。
充満する煙に、容赦ない熱。
こんなのはいままで味わったことがなかった。