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大増殖天使のキス【毎週ショートショートnote】

 ある町に通り魔ならぬキス魔が現れるようになった。
 すれ違いざまに女性の唇を奪うという卑劣な輩で、町の人々はほとほと困り果てた。
 キス魔の犯行は、手早く一瞬で行われる。たとえ熟練の警察でも捕まえることはできなかった。
 このままでは町に若い女性がいなくなってしまう。
 困った町の人々は教会に赴き、神に祈りを捧げた。どうか町を荒らすキス魔をなんとかしてください。『あい、わかった』という返事が人々の耳に届いたかどうかはわからないが、神はさっそく美しい天使をこの町に遣わせた。

 すぐにキス魔は町に降り立った天使に狙いを定めて唇を奪った。見事、と言うべき早業。だが、奪ったと思ったのも束の間、次なる美しい天使がキス魔の目にとまる。あっちにも、いやこっちにも。天使、天使、天使の大群。

 町中に大増殖した天使たちの唇を残らず奪うのに七日七晩費やした件のキス魔は、唇を奪うのに疲れて往生したとか。以後、町からキス魔は消えたそうである。

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