スナイパーの意外な使い方【毎週ショートショートnote】

「二時の方向、風速は15メートル、標的までおよそ500メートル」
スポッターの指示に合わせて僕は照準を定める。
ここはビルの屋上。早朝から忍び込み準備をしてきた。
「予測より風が強い」
とスポッター役の妻が言う。
僕らは夫婦でツーマンセルを組んでいる。
「わかってる」
僕は小さく頷く。
シモ・ヘイヘには遠く及ばないとしても、僕だって経歴は長い。それくらいわかる。
「ちょっと待って」
「え」
「標的が変わったの。狙いは右隣りだって」
僕は慌ててライフルの位置を変え、新たな標的に照準を合わせる。

熊が目に入る。

ヤツか。

「タイミングが肝要よ」
と妻が言う。
僕は頷く。

「3、2、1、いま!」

プシュ。

サイレンサー付きのライフルから射出音が漏れる。
見なくても、頭の中で獲物が倒れたのがわかる。

やったよーママ! 一発で命中した!
息子の声がスピーカーモードにしたスマホから漏れる。
「命拾いしたわね」妻が囁く。「あなたの使い道なんてこれくらいしかないんだから」

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