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ジビエになるまで〜①捕獲→お肉編

はじめに

私がジビエの存在を知ってから早五年。ここ1、2年で急速に認知度が高まってきたなぁと感じています。
初めてデザフェス(ハンドメイド販売イベント)でジビエレザー商品を販売したとき(当時はMAKAMIではなかった)、ジビエの存在を知っていて興味を持ってお買い上げいただいたのはお一人だけでした。ブランドそのものの実力不足もありましたが、ご来店いただく方の反応が今とはやはり違っていました。今ではSDGsに関する教育の機会も増え、特に若い年代の方々の意識が高くなってきている印象です。

その中で度々、害獣ってどうやって捕獲・駆除されているの?、処分って具体的にどうしているの?、どうやってお肉や革になっているの?、といったご質問を受けることがあります。

以前「MAKAMIについて」の記事で、シカやイノシシらがもたらす農作物被害について触れましたが、今回は「害獣」と呼ばれ、捕獲・駆除された野生動物たちがジビエという「資源」に変わるまでのリアルを書きたいと思います。

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※害獣駆除の実態についてより詳しく知りたい方は、農林水産省の鳥獣対策コーナーに各種資料が公開されていますのでそちらをご覧ください。

駆除はいつ誰がする?

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人間の生活に被害を与える動物を私たちは「害獣」と言っています。しかし彼らはただの野生動物です。人間からみると害獣でも、むやみやたらと彼らを捕獲したり駆除をしてしまうと自然の生態系が崩れる原因となってしまいます。
そのバランスを保つため「鳥獣保護管理法」という法律で害獣の駆除を規制しています。鳥獣保護法は簡単にいうと「日本にいる野生動物をすべて保護。勝手に捕獲や狩猟をしてはいけない。ただ指定された動物については狩猟してもよい」というものです。

鳥獣保護法で捕獲を許可されている動物でも狩猟のためには「狩猟免許」の取得が必要です。その上、狩猟は一年中できるわけではなく、原則11月15日~2月15日の3カ月間に定められた狩猟期間のみ許されています。(北海道は10月1日~1月31日)さらに狩猟ができる場所や、銃を使用する場合はその時間帯も自治体によって定められています。このようにかなり管理された中で狩猟は行われています。

とは言っても、農作物被害は秋〜冬に限ったものではありません。害獣駆除においては「対象の鳥獣のみ他の期間でも駆除できる」ことになっています。ただし害獣駆除は国・自治体からの依頼によって行われるため、狩猟免許を持っていれば誰でもできるというものではありません。別途、申請・登録が必要となるようです。

主な流れとしては、
被害にあった農家が自治体に駆除を依頼する→
自治体が登録された猟友会(特定の条件を満たした狩猟者団体)に駆除を依頼する→
依頼を受けた猟師が対象の野生動物を捕獲
といった流れになります。

害獣駆除の流れ

ただ資格がなくても、普段から住居や所有している畑などに害獣の被害を受けている場合は、各自治体に申請することで捕獲の許可が下りることもあります。

なんかもー
細かい手続きやルールについてはホントに自治体によって違うようで、私も調べながらこんがらがっております。それくらい複雑。

捕獲した後はどうなる?

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有害鳥獣を狩猟で駆除した場合、自治体から「報奨金(報酬金)」がもらえます。狩猟した鳥獣の死体を撮影して自治体に報告したり、獲物の一部(しっぽなど)を切り取って提出することで受け取れるようです。報奨金の金額も各自治体ごとに設定されていますが相場としてはこれくらい。
(※ 相場といいつつ、自治体によっては半分以下のとこも)

イノシシ:20,000円前後
シカ:25,000円前後
キョン:6,000円前後
サル:30,000円前後
ハクビシン:3,000円前後
アライグマ:3,000円前後
アナグマ:1,000円前後
カラス:1,000円前後

これら報奨金は市区町村ごとに定めた金額や、国からの補助金を合わせて支給されます。報奨金を受けるための条件を設定している自治体もあります。

報奨金もらえるんだ〜いいじゃん、と思うかもしれませんが、経費込みでこの価格。設置するわなの費用とか銃の玉とか移動費とか、さらには野生動物が相手なので丸一日山に篭って収穫ゼロということも。かなりベテラン猟師でもこれで生活するのは難しいレベルです。

さて本題の捕獲された動物はどうなるのか、ですが、これも状況によりけり。自治体に引き渡したり猟師が自家消費用に捌いたり。通常の狩猟であればほとんどが自家消費でしょうが、駆除の場合、大半は『殺処分』です。自治体の職員が行うケースもあれば猟友会に委託するケースもあります。方法は様々ですが、少しでも動物が苦しまないよう方法は色々模索しているようです。捕獲した以上離すわけにもいかないし、他に方法はないので誰かがやらなければなりません。当然誰だってやりたくない仕事です。

シカやイノシシにおいて一番多いのは、わな(箱わな、くくりわな)による捕獲ののち、止め刺し(ナイフ、銃、電気など)でしょう。
以前、年配の猟師がわなにかかったイノシシに止め刺しをしようとして近づいたところを逆に襲われ亡くなったという事件がありました。命を奪うということは簡単なことではありません。

おそらく私を含め一生縁のない人が大半でしょうが、人が負うべき業を誰かが代わりに負ってくれているのだということは心に留めておきたいと思います。

ジビエ利活用〜①肉〜

殺処分の後は山や休耕地に埋葬されるか焼却処分されるものが大半ですが、少しでも多くの命を資源として活用しようと活動している人たちはたくさんいます。ジビエレストランやペットフードにシカ肉など、私たちも目にする機会が増えたのではないでしょうか。
私は肉を取った後の皮を活用している立場ですが、皮だけ取って肉は廃棄ということはまずありません。家畜でもジビエでもまずは肉ありきで皮はその副産物です。つまり肉の利活用が進まないと皮の利活用も進まないのです。

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野生動物のため、ジビエ肉として加工・流通させるには定められた衛生基準をクリアし承認を受けた食肉処理施設での加工が必要となります。
また肉も皮も鮮度が命なので、止め刺しから30分以内に解体を済ませなければなりません。理想は生きたまま処理施設まで運び、そこで止め刺し、解体という流れですが、難しい場合は血抜きまで行った後、なるべく冷却して処理施設まで運びます。

令和2年度に野生鳥獣の食肉処理を行った処理加工施設は全国で691施設、処理されたジビエ利用量は1,810トンであり、平成28年度と比べて1.4倍に増加しました。

処理加工施設の数も平成20年には42施設だったので格段に増えてはいます。しかしジビエの食肉利用の割合は全体の1割程度からあまり増えてはいません。捕獲頭数も増えているので割合は変わらず絶対数は増加している感じです。
利用率を増やすにはまず、繁殖前のメスを効率的に捕獲して数を増やさないようにすることが大切なのだと思います。が、相手は野生。プロが対応してもなかなか難しいというのが現状でしょう。
この他、施設の数は増えていても野生動物を解体するために適切な知識・技術を持った人材が足りておらず、稼働率が低いという課題もあります。

私たち一般の人ができることは何か?

「ジビエ肉を食べること」これにつきます。ジビエ肉、美味いです。個人的にはシカよりイノシシの方が肉肉しくて好きです。あとジビエ肉は栄養価も高い。

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ジビエ肉あまり美味しくないと思っている方!ジビエ肉は調理次第です!過去に美味しくないジビエ肉を食べた経験がある方は下処理がうまくない肉を食べたのでしょう。ぜひ一度ちゃんとしたレストランや口コミのいい場所で食べてみてください。数年前よりレシピの研究も進み、だいぶ美味しくなっていると思います。
私も最初シカ肉を食べた時は「あんまり美味しくない。というか肉の旨みが感じられない」と思っていました。でも別の機会に食べたシカ肉は「うまっ」て思ったんです。調理次第でそれくらい差があります。

でもねー高いんですよねー。わかる、わかる。

一般消費を促すために低価格を実現する努力をするか、高くても食べたい!と思ってもらえるようにブランディングするか、などはレストランだったり、ジビエ肉をビジネスとして提供する側が考え実行することだと思います。
私は回し者ではないので、ジビエ利活用のためにみんなでお肉を食べましょう!なんて安っぽいことを言うつもりはありません。でも、沢山の人たちが命と向き合い、その魅力を伝え、少しでも美味しく活用しようとしています。

ジンギスカンだって私の子供の頃はクセが強くて美味しくないという認識でしたし、スーパーで見かけることはまずありませんでした。でも最近では臭みが少なく家でも美味しく食べられるものが簡単にスーパーで手に入るようになりましたよね。
同じようにジビエ肉についても、これからどんどん変わっていくのだと思います。まだ挑戦したことがない人も、過去に失敗した経験がある人も、まずは選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか?それがジビエがより私たちの身近になる第一歩なのだと思います。


さて、ここまで「害獣」とされる野生動物の捕獲から処分、ジビエ肉としての活用までお話しましたが、ジビエレザーブランド「MAKAMI」としてはさらにこの先の、『皮から革へ』がむしろメインです。
ですが、かなり長くなってしまったので今回はここまでで一旦区切りとし、革の加工については次回に続きます。

ではまた〜

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