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MAKAMIについて

はじめに

初めまして。自然との共生を考え、楽しむブランド「MAKAMI(まかみ)」の代表の久津(ひさつ)と申します。「MAKAMI」では、シカ、イノシシ、クマなど、害獣として駆除された動物の革(ジビエレザー)を用いたレザーアイテムを制作しています。

みなさまは「ジビエ」という言葉を耳にしたことはありますか?
ジビエとは、本来、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味する言葉(フランス語)でしたが、日本では野生鳥獣による農作物被害の対策で捕えられた鹿や猪を指す言葉として認知されてきました。
近年、都市部ではジビエ肉専門店なども増えてきましたが、奪った命に対し活用できているのは10%にも届きません。
とある革の見本市で私が初めてジビエレザーに出会ったとき、自然の生命を見せつけるような荒々しい傷痕や、それでいて想像を裏切るしっとりとした手触りに惹きつけられました。傷があるから、均一でないから、という理由で他にはないジビエレザーの魅力が知られないのはもったいないと思ったのです。
人々の生活を守るため、殺めなければならない命なら、せめてそれらは余すことなく生かそう。そうして生まれたのが、ジビエレザーブランド「MAKAMI」です。「MAKAMI」の作品を通して、この機会に多くの方にジビエレザーを知ってもらい、自然の恵みを活かす命の循環に想いを馳せて頂ければ幸いです。

「MAKAMI」の描く世界

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みなさまはジブリ映画の『もののけ姫』を観たことはありますか?
そこに描かれる人間と自然との対立や、立場の異なる人同士の対立は、アニメ映画でありながらもとてもリアルで複雑です。そしてそれはそのままジビエにまつわる現実問題とかぶるものがあります。
さらに『もののけ姫』に出てくる森の神様や生き物たちはとても神秘的で、時に荒々しく力強い存在として描かれています。私が作品に込める想いはそんな自然の厳しさや畏れを含む、生命の美しさそのものです。
「MAKAMI」の由来となった真神(マカミ)はニホンオオカミが神格化したもので、古来より聖獣として崇拝されていました。イノシシやシカから作物を守ってくれる神様としても崇められていましたが、その獰猛な性格から畏怖の対象でもありました。作物を守る神様でありつつも、人間の行いを厳しく見守る姿が、私の思い描くブランドのイメージに合ったのです。

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自らの糧となる命に対し手を合わせて「いただきます」と言う、古き良き日本。日常に紛れてそんなこと忘れていたなぁ、とジビエに出会ってから考えるようになりました。
「MAKAMI」が扱うのは、農作物に甚大な被害を与え、人間たちから「害獣」とされてしまった獣たちの尊い命です。
大きなことはできないけれど、日常の中でほんの少し、厳しくも美しい自然の景色を「MAKAMI」を通して多くの人に感じてもらいたいと思います。

農作物被害に嘆く人々

私が革の見本市でジビエレザーと出会い、作家として作品を作りながら思ったことは、まず私自身がジビエの背景にある様々な問題について知っておく必要がある、ということです。
私にとって肉や野菜はスーパーに行けば簡単に手に入るもので、せいぜい「農業は休みもないし天候に左右されて大変だ」という認識でしかありませんでした。
しかしジビエレザーを扱い、それを他の人に伝えようとするならば、その裏にある現実について知らないのは恥ずかしいと思ったのです。そうして様々な場に顔を出し、関係者の方からお話を聞きながら知った事実は私の想像を上回るものでした。

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近年では都市部にも鹿や猪が出没しニュースとなり、人間との生活に様々なトラブルが生じています。特に農作物への被害は甚大で、農林水産省が発表した「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成30年度)」の資料によると、鳥獣による平成30年度の農作物被害金額は約158億円にのぼります。その多くはシカやイノシシが田畑を踏み荒らし、稲や果物を食べつくしてしまうことが原因です。
この被害金額は、農家の平均月収で換算すると、約4万人分もの月収に相当します。中でもイノシシにキャベツ畑を全て掘り起こされ廃業に追い込まれてしまった農家のおじいさんの話は私に強い衝撃を与えました。スーパーで野菜が高いと考えていた世界の裏にはそんな現実があったのです。

異常なまでの繁殖力を持つ、シカ

シカは、毒やトゲがあるもの以外大抵の植物を食べます。そのため、野菜や果物が食べられてしまったり、食害や田んぼが踏み荒らされるなどの被害を与えます。さらに繁殖力が異常に強く、生後1年目から毎年1頭ずつ子供を生むことができるため、群れをどんどん拡大していきます。その上、シカは大食漢で一日一頭当たり3キロの食物を食べるとされています。そうしたシカが大量に増殖していけば山の食べ物は少なくなり、人の田畑を荒らすようになるのはもはや必然です。かわいいだけではなく、農家の人達にとっては死活問題です。

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一晩で稲を全滅させたこともある、イノシシ

イノシシは水稲や野菜の踏み荒らしや、果物を食べてしまうなどの農業被害がほとんどです。こちらも繁殖力が強く、年に1回4~5頭の子供を生みます。雑食性の動物で何でも食べますが、農作物被害で多いのは稲やサツマイモ、豆類、サトウキビなどで、田畑に侵入しては農作物を根こそぎ食い荒らしてしまいます。運動能力が高く、100キロを超える巨体で1メートル以上もジャンプしたり、急な崖でも簡単に登ってしまうため、柵などの効果が薄く、被害を抑えるのは大変です。

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また、農作物被害だけでなく、近年人里に下りてくる野生動物と車や電車などとの衝突事故が増加しており、人身事故も大きな問題になっています。
動物たちが人里に現れる要因に人間の行いがあるのも事実で、奪われる命をかわいそうとは思うものの、私たちが想像する以上の被害に対し、人々の生活を守るためには一人一人が向き合わなければならない問題なのではないかと思いました。

獣を狩る人たちの想いと私の想い

被害を抑えるため、国やあらゆる団体が色んな対策をとっています。
人々の生活の根幹を脅かす彼らは「害獣」とされ、年間約100万頭の野生鳥獣が「個体調整」のため捕獲・駆除されています。
「個体調整」は鹿や猪を捕獲し、個体数を減らす取り組みで、冬季の狩猟期以外に、夏季も含めた有害鳥獣駆除を国や地方自治体の助成を受けて地元の猟友会が行っています。
もちろん、安易に数を減らそうというだけでなく、野生鳥獣の集落への出没を防ぐ目的で、畑の野菜くずや柿など果実の撤去などを行ったり、人との生活区域を分けるために柵を設置したり、様々な取り組みがなされています。
利活用としては、近年ジビエ肉が普及するようになってきましたが、そのまま山に放置される命も多いのです。

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「マタギ」という言葉があります。「マタギ」とは、クマなどの大型獣を捕獲する技術をもち、狩猟を生業としてきた人を指します。東北地方の山間部に今でも存在する彼らは獲物に対し敬意をもって命がけで狩りを行います。現在は、行政からの依頼を受けて有害鳥獣駆除も行う彼らですが、本来なら忌み嫌う仕事なのです。

「こんなものはただの殺戮だ。『殺生』とは『殺して生かす』と書く。その先に『生かす』ことがなくちゃなんねぇ。」

再び、私の心に衝撃が走りました。

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作家としてできること

自然と人間との共存社会の実現には、多くの課題や様々な立場の人の切実な思いが複雑にからまっています。正直、一作家にしか過ぎない私には解決の糸口すら見えません。だからといって目を背けていい問題でもありませんが、知れば知るほど途方に暮れたくなりました。
偉そうなことを言って始めたけれど、自分にできることは何だろう?

『生かすこと』
マタギの方の言葉が甦ります。

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皮を革にするためにはその間に色んな手間がかかります。大量消費の牛肉と違い、ジビエは個体差も大きく、都度都度の処理となるため、加工の手間は倍増です。そのため、利用しやすい肉のみを取って残りは廃棄してしまいます。
私と同じように、無駄な命をなくしたいという思いで革の加工を行っているタンナーさんも、価値を知ってもらえなければ数が増やせないと言います。
でも、ただジビエレザーを普及させればいいわけではありません。それでは作家としての私が幸せになれないからです。

私が思い描く「MAKAMI」の世界で、ジビエの魅力とそこから感じる自然や命の美しさを作品を通して伝えていく、そのために活動していくことが私にできることであり、私が実現したいことなのです。


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