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DXを担いで営業活動してみて分かった「DXを阻む要素」 4選

InternetExplorerがついに終わりました。私がIT業界に入った2000年の頃はIEかネスケ(Netscape Navigator)かという論争が加熱していたので、両方とも居なくなったというのは非常に感慨深いところです。

先日のWBSでは「未だにIEから脱却できない企業」を取材していましたが、行った先で動いていたのはEdgeだったという状況で、取材陣の心労と機転の大変さが伺えました。

「昭和から業務フローが変わらない日本企業」は「経営者がITに対して理解がない」という話があります。このタイプの会社さんはあります。自称IT企業でもWindows PCは10年使えると信じている企業はあります。

経営者がIT投資に対して興味がないというのはどうにもなりませんが、DXを担いで営業をしていった経験からするといくつか他にもDXを阻む要素があるというお話が今回の話題です。

DXがうまくいかない日本企業の特徴

システム開発の文脈でDX支援の営業をしたり、デジタル人材採用の観点で情報交換をしたりすることもあるのですが、「この企業は何もしなさそうだな」といういくつかの傾向が見えてきました。

そこまで悲壮感がない

特に地方部によく見られるパターンなのですが地元の電力会社のような太い顧客や親会社が居り、直ちに手を打たないと売上が立たなくなるというようなことがない企業の場合、DXに対して話を聞きたいとなるものの特に何も起きません。

人材不足の点で話をしても、手練のデジタル人材は居ないものの、地元の有力企業であることから地元出身者が自動的に志望してきたり、提携している高専から人が入ってくるので「若い人が欲しい」という観点であれば情報系の人材もそれなりに入ってくるので欲していないケースもありました。

結果、どう話してもそんなに響かない商談というのがいくつもありました。

情報収集が目的で永遠に情報収集をしている

数年前にブロックチェーンの文脈でエストニアに注目が集まったことがあります。

当時、既にエストニアに進出されていた日本人の方とお話する機会があったのですが、日本企業について下記のように話していました。

日本企業は視察に来る。よく来る。そして「勉強になりました!」と言って、帰り、何も起きない。

DXにも同じことが起きています。各社が主催するセミナーに参加し、営業も受けるのですが「検討します」と言って以後は何も起きないというものです。

いくつか共通した事象としては「総務部 情報収集課」という方が商談に立つというものです。セミナーに参加し、話を聞き、「勉強になりました」と切り上げてレポーティングするというのが主要業務なようです。

こちらも商談の過程で課題がありそうなところを提案するのですが、どうも芯を食った感じがしませんでした。製造業の場合であればこうした窓口の担当のかたのポジションはあくまで総務部なので「現場のことは分かりませんし、口出しもできません」という回答があったこともありました。

「現地で社長に対して対面営業を繰り返せば受注できますよ」というお話も頂いたのですが、営業する側としても限られた予算の中で実施するには厳しいというのが正直なところです。情報収集だけされるということが分かられてくると営業をかける企業も減っていくのだろうなと感じます。

デジタル人材を巡る待遇格差で社内政治負け

6/17に下記のようなニュースが駆け巡りました。コンサル会社がセブン&アイホールディングスにイオンの情報を漏洩したというものです。

起点となったのは下記の週刊ダイヤモンドです。私も気になってKindle版を買い求めました。セブン&アイホールディングスのDX戦略において任命されたCDOを下ろす動きがあり、CDO下ろしのためにコンサルを動かしてイオンのDXを引き合いに出しながらセブン&アイホールディングスのDX戦略を扱き下ろしたという流れがあったとのことです。その内部資料をダイヤモンドが入手し、紙面でイオンが知ることとなり4ヶ月の調査を経て今回のリリースに至るとのことです。

DXに対する社内政治の混沌さの一角は新規に採用するデジタル人材と、既存社員の待遇差だったと紙面にあります。

このデジタル人材と既存社員の待遇差というのは私自身よくご相談頂く項目です。終身雇用を前提としている正社員が居て、そちらは年齢をベースに上がっていきます。そこに中途でDXを担う人材が終身雇用を前提としないIT企業出身者を取り入れることで社内にやっかみが生まれるという話です。歴史が10年以上ある終身雇用風の制度設計のIT企業からも上がる話です。

終身雇用とイノベーションを担う専門性が高いデジタル人材の取り合わせは端的に言って非常に悪いです。ここについてはコンサル、SIer、フリーランス、副業人材といった人材とスポットや、3年程度の有期で契約してしまうのが現実的なのではないかなと感じています。

DXの文脈で最近お勧めしているのが下記の「ルポ 日本のDX最前線」なのですが、ここでは副業人材の活用事例が紹介されています。現役のITエンジニアのリソースをスポットで入ってもらいながら、PoCから初めて見るというアプローチは合理的に感じられます。

補助金ありきのDX

地方在住ITエンジニアの方々に継続してインタビューをしているのですが、その中で「どこからの案件を受けているのか」「地元の企業から受注することはあるのか」とお聞きしています。

今のところ20名のインタビューができております。地元の案件をされている方は実に2名でした。母集団がSNSベースなので偏りはあるものの、地元の案件は単価が低いため手を出していないという方が殆どでした。

特にDXの点ではお金を出し渋る企業が多いとのことです。ボランティアの名のものとで無償提供した事例に甘えていたり、「初回は無料、2回目以降はお金を出さなくもない(単価は地方単価)」というケースもありました。未経験フリーランス界隈でもよく見る構図であり、真っ当に仕事をこなせる経験者から居なくなるパターンです。

唯一、地方部も脈がありそうだなと思ったのがその土地の士業をやられている大きめの事務所です。ここに関してはインタビューした範囲では東京と同等の金額を積んだ上でVBAによる基幹システムからのWeb化についての発注が行われているようです。

それ以外は補助金があれば着手しないでもないというものもありました。所謂補助金漬けのような状態です。コロナ禍による地方自治体の財政出動具合を踏まえると、当面進まなそうだなという印象です。

トヨタのお膝元である愛知・名古屋・静岡のような特殊なエリアや、その地域一帯を管轄するライフインフラ系企業の関連子会社や取引先を除くと、本当に地方部にお金が無いですね。

既にDXを開始している日本企業の特徴

DXを渋る組織の特徴をまとめて行くと、なぜDXをするのかというWhyが無い、もしくはそこまで強いWhyではないという現状を感じます。IEのような期限が決まっているのでやむを得ず着手するという状況でも動きは芳しく無く、Whyとしては弱いようです。

私のクライアントにもDX投資をしている会社さんがありますが、DXを前に進めるためには下記のような条件があるように思います。

  • 経営トップがDXについて能動的な理解と強い問題意識がある

  • DXに熱い思いがある中堅があり、コスト投下している

  • 実行部隊であるITエンジニアにサービス志向性があり、能動的な働きかけができる

3点目については先の「日本のDX最前線」ではコープさっぽろの事例が取り上げられています。CDO対馬氏によると「現場を知ろうとしないエンジニアは採用しない」と明言しています。「事業に情熱があって、事業をどうにかしたいからシステムをなんとかする」という順序に拘られて居られます。これはまさにその通りだと考えていまして、普通のプログラマを連れてきても彼らに仕様を整えてインプットする人物が必要となります。純然たる末端のメンバーであればコーディングだけできれば良いのですが、正社員として迎え入れるメンバーとしては物足りず、サービス志向性とリーダーシップの2つが重要となります。

DXの文脈には内製化が含まれているのですが、まずデジタル人材全員を正社員採用するというのは早急すぎるため、コアとなる人材を迎えつつ順番を抑えていくのがポイントとなっています。

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