リスキリング・学び直し界隈の流行と、未経験エンジニア界隈再来の悪い予感
リスキリング市場が活況です。2022年10月にリスキリングに対して5年で1兆円を投じるという岸田首相の発言から認知されたリスキリング。その後の、「育休中にリスキリング」という発言の方がGoogleトレンド的には認知に役立ったようです。日経新聞、教育コンテンツを持っている企業や、研修事業、人材事業界隈が躍動していることが感じられ、それなりの大きさの市場になっていくと予想しています。
元々は職業上新たな価値を創出するためにスキルを身に着けるという意味合いでしたが、個人の学び直しなどの話も混ざっています。悪い予感も感じられるため、 リスキリングについてまとめておきたいと思います。
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オンラインスクールビジネス + リスキリングの悪い予感
先日見つけた広告に下記のような内容のものがありました。元々プログラミングなどのスクール事業を展開していた企業が、リスキリングの文脈で40代向けに広告を打っていました。
『手に職を増やす』という柔らかめの表現はあるものの、匿名の事例にはWeb業界へのデザイナー転職事例なども紹介されており、今後の集客文句に注意しています。
リスキリングの先の出口と、年齢にシビアな日本企業の慣習
キャリア戦略を考えた際、出口は意識しなければなりません。現職に留まった上でのスキルアップや リスキリングであれば問題にはなりませんが、非正規雇用や退職済み、あるいは早期退職の場合は次のキャリアに繋がる学びを得たいという思いがあるのも当然のことでしょう。
私も様々な経歴の方にお会いしてきましたが、20代(厳しく見た場合は27歳くらい)までは世間は寛容です。転職回数が1-2回であれば、異世界転生的な思い切ったキャリアチェンジも可能ではあります。社会人を暫くやった後に大学に入りなおし、27歳くらいで就活をすると新卒カードが得られる場合もあります。
全く異なるキャリアを志した場合、ゼロからのカウントとする企業が多いため、20代と30代以上の応募があった際には20代を選ぶ企業が多いです。
年齢を重ねれば重ねるほど、この挑戦を肯定して受け入れてくれる企業は減ります。書類審査で弾かれることも多いですし、面接に辿り着いたとしても「何故今までチャレンジしなかったのか?」という質問に納得のいく形で回答しなければなりません。稀に受け入れる企業はありますが求人数が少なく、すぐに埋まってしまいます。こうした傾向が改まるには世間的な成功体験が足りないと感じています。
転職ありきの リスキリング補助もありますが、転職成功率は非公開となっています。30代を過ぎると異世界転生のキャリアチェンジではなく、過去を肯定し、これまでのドメイン知識などを活かした上でのキャリアチェンジの方が確からしいです。
更にハードルの高いリカレント教育
リスキリングに類似の言葉として、リカレント教育があります。こちらは定義としては一度退職をし、学校にて学んだ上で再度就職するスタイルになります。リカレント教育も30代以上はまだ事例が少ないため、海外のように浸透するのはまだ先の話でしょう。今回冒頭で話題にしているスクールはあくまでも民間のものなので、キャリアチェンジの際に後押しとなる証明の類は期待が難しいです。あくまでも学習を進める上での選択肢としての位置付けであることを意識する必要があります。
出口としての派遣企業の動き
下記は日経新聞の記事ですが、このような記載があります。
派遣会社がリスキリングの影でアップしているわけですが、これと類似の話はIT業界では既に発生しており、同じ展開が起きるのではないかと懸念しています。
未経験エンジニアを巡るスクールビジネスでの類似事象
2018年に『これから不足すると言われるITエンジニアになろう』という話が増加して行きました。大手企業が参画し、受講生の勧誘合戦が起きました。
勧誘合戦が加速した結果、当時のLPや広告では次のような売り文句が見られました。
エンジニアになることで手に職をつけられ、食いっぱぐれがない
エンジニア転職で現年収+100万円
いつでもどこでもパソコンがあれば働ける(ノマド、ワーケーション)
デスクワークなので60歳を越えても働ける
いずれの文句も再現性は低く、「当たりどころと本人の適性と能力があれば理論上はできなくはない」くらいのお話です。しかし売り文句があまりに華やかであったため、今でも信じている方は居ます。
学校法人であれば学位が授与されますが、民間のスクールは特に履歴書に書けるものはありません。安くない民間のスクールに行くからには、何かしらの出口が候補者から期待されます。そうでないとカルチャースクールと同等です。
一部のプログラミングスクールでは転職保証が謳われています。毎週、何かの企業に20エントリーすることによって転職保証の権利が得られます。しかし転職保証の先には年収230万円の派遣会社が待ち構えています。
こうした派遣会社では入社後に適性検査が実施され、非エンジニアの現場に行くことがあると当時から言われていました。ここのところジュニア層採用でこうした派遣会社に行った方の話が入るようになったのですが、『エンジニアなのでコミュニケーション力が必要』と説得され、下記の現場に行くそうです。
ヘルプデスク
家電量販店店員
コールセンター
事務員
ヘルプデスクだとまだ良いのかなという塩梅です。
こうした場所への派遣を拒否した方も居られましたが、待機扱いの上でeラーニングとしてずっとビデオコンテンツを数ヶ月鑑賞されていました。
派遣会社以外の行き先としては悪質なSES企業の話もあります。現場が決まるまで入社日が後ろ倒しにされるため、なかなか現場が決まらないと無職期間が延びるというものです。
転職は企業の内定があって初めて成立するため、いくつかのプログラミングスクールでは『自由な働き方ができるフリーランスになろう』と謳いました。熟練したスキルを持っているフリーランスならともかく、ここのところの不景気でジュニア層のフリーランスは溢れています。
20代を主要なターゲットにしたプログラミングスクールでこの有り様でした。リスキリングは学習のきっかけとしては結構なことですが、悪質なプログラミングスクール界隈のように、人生を好転させたい層をターゲットにした貧困ビジネス的な側面がみすみす再現されないかということを懸念しているところです。
現職から「できることを拡げる」、あるべきリスキリング
では望ましいリスキリングの観点はどういったものでしょうか。
リスキリングの本来の文脈を踏まえると、職業上新たな価値を創出するためにスキルを身に着けることにあります。
ITスキルの場合、急に若手で溢れているWeb界隈の技術に取り組んで転職をするよりは、これまでの積み重ねの上で、業務効率化の観点でITスキルを身に着けるのが現実的ではないでしょうか。その際の補助として各種スクールや教材を手にするのは個人の自由と自己責任でしょう。
JDに書いていない業務を追加で引き受け、そこからできることを増やしていくことも良いでしょう。下記の三和建設のような事例が適切ではないかと考えています。
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