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SES界隈が混とんとしてきたので分類してみた

就活生向けにIT業界の各種業態について説明などをさせて頂いていることもあり、就活生からの相談で「経験を積みたいのでSESが良いと思いますがいかがでしょうか」などとご相談を頂くことが定期的にあります。

一方でXでは定期的に盛り上がるSESに関する論争があり、System Engineering Serviceという元々の名称では一括りにできないほど多様化が進んでいます。今回はSESを巡る論争を整理していきたいと思います。

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SES界隈を整理する

結論としては「会社に依る」のですが、ある程度のゾーニングはできると考えています。

SES企業の分類(目安)

親会社が大手のSES

親会社が大手企業であるSESの場合、しっかりと予算をつけて採用を展開する傾向にあります。人材紹介から未経験を積極採用しているのもこの企業群です。

営業力の高い従来型SES

従来型のSESのうち、営業力の高い組織です。単価が高い案件を獲得していたり、複数の直案件を抱えることで高い売り上げを達成しているケースがあります。

単価の高さは商流に連動するとは言い切れません。ここのところはSaaSやスタートアップが低調な一方、日系大手企業が活況なため、彼らが発注しているSIerから受ける方が条件が良い場合が観察されています。

営業力の低い従来型SES

営業力の低い従来型SESの場合、抱えている社員の待機(コンサルではアベイラブルと言いがち)を避け、給与を捻出するためにBP(Business Partner)ネットワークに頼って社員を出さざるを得なくなります。SESと初回営業をすると「弊社では常時1000社のパートナーが云々」と言う企業が多いのはこのBPネットワークを指します。

営業しか居ないSES

エンジニアを社員として抱えず、BPネットワークにだけ存在して案件を右から左に流すSESです。前述した営業力の低い従来型SESの間に介在していることが多く見られます。

下記のようなスパイラルを経ることによって商流が深くなっていきます。

ある企業から発注を受けたSES A社がBPネットワーク A'に流します。A'の求人を見たSES B社がBPネットワーク B'に流します。さらにB'の求人を見たSES C社が…と言ったようにどんどん商流が深くなっていきます。

  1. ある企業からSES A社が案件を得る

  2. A社はBPネットワーク A'に求人を流す

  3. A'の求人を見たSES B社がBPネットワークB'に求人を流す

  4. B'の求人を見たSES C社がBPネットワークC'に求人を流す…

人を出すことができるいずれかのSES企業が手を挙げるまで深くなります。個人的にお会いしたエンジニアの中で、一番商流の深い方は7社下でした。

高還元SES

受注単価に対し、従業員への給与比率が高いことを主張するSESです。

高還元の計算式は統一されておらず、何パーセント以上が高還元かという定義が世間的に特にないことに注意が必要です。65%が1つの目安と言われることもあれば、73%こそが高還元であるという話をする企業もあります。

高還元と名乗ることによって採用がうまく行くことから、非常に混とんとしています。本項目で扱う高還元SESは、「名実ともに高還元のSES」「特に高還元を名乗っていなかったが計算してみたら高還元と呼ばれるSES」を指します。

高還元を実現できる背景としては下記のようなものがあります。

  • 育成対象(即時にマネタイズできない)ジュニア層を採用していない

  • バックオフィス人員が少なく、コストが低い

  • 採用チャンネルとしてリファラルやSNSを主としており、採用コストが低い

高還元と謳っているが虚偽のSES

自称高還元であるものの、実態としては高還元ではないものです。下記のようなことをしながら高還元を名乗っており、私のところにもキャリア相談に来られています。

  • 高還元と名乗っているがパーセンテージは開示していない

  • 社会保険料の企業負担分や、福利厚生費用も「従業員への還元である」と解釈して計算に入れている

  • パーセンテージを開示して求人しているが、それは一部の経験者のみで、殆どの人は低い

  • 案件アサイン先が決定されるまで入社できない

  • 案件が切れると解雇される

また聞きではありますが、「社員に対して受注金額よりも低い偽の契約書を見せ、高還元と見せかける」というSESもあるようです。

自身の給与の構成要素に興味を持ち、しっかりと契約書などを確認できる人物でないと入社するには厳しい企業群です。

総合職に対応したSES

エンジニア求人をしていながら、大多数が非エンジニア業務に当たっているというパターンです。社員の3/8がエンジニア職で雇用されながらも非エンジニア職の現場にアサインされている組織もあります。入社後に適性検査があり、そこで非エンジニア職にアサインされる組織もあります。ヘルプデスクやテスターはまだITっぽい一方で、下記のようなアサインもあります。

  • コールセンター

  • 事務職

  • 家電量販店売り場担当

  • アミューズメントパークスタッフ

  • アミューズメントパーク着ぐるみ

「エンジニアにはコミュニケーション力が必要だ。まずはコミュニケーション力をつけるためにコールセンターに行きましょう」と説明されたりするとのことです。アサイン先で3年程度経過している事例もあります。

親会社が大手であったりする場合、人材紹介会社と組んで「一人あたりいくら」の固定金額で人を集めているケースもあります。

一部SESにて共通したトラブル

従来からSESの契約を巡るトラブルで見られる条件ではありますが、下記のようなものを追加することによって収益確保や高還元を達成しているSESもあります。(6/3 19:04 Xでご意見を元に編集、21:58 項目を移動)

  • 案件アサイン先が決定されるまで入社できない

  • 案件が切れると解雇される

他にもある派生系

SESとは名乗っていないものの、結果としてSESのようになっている事業はあります。

伴走型の開発で準委任契約

請負契約が多かった受託開発会社にあって、顧客にチーム体制で準委任契約で入り、ディスカッションを重ねながらアジャイル形式でプロジェクトを進める企業が増加しています。「上流から入るチーム入場のSES」のような形態ですが、営業、採用、ブランディングの観点からSIerともSESとも言いたがらない組織が多いものの、各社足並みを揃えることはないので定着しきれない名称が多く見られます。

大手企業との契約が取れるかもという期待値で人を出すも、そのまま拡大されない準委任契約

私もクライアントワークをしていた時に心当たりがあるのですが、大手企業との契約で「まずは一人出してほしい」と言われて正社員を準委任契約で出すものの、そのまま拡大しないプロジェクトというのはよくあります。

受託開発の人が余ったのでSES・付き合いでSES

受託案件を引き受ける体制を作ったものの、まとまったサイズの案件が獲得できないのでSESとして個人を外に出すケースも見受けられます。あまりSESの商習慣が分からずに参入すると商流の下位になることがあり、悔やむ経営層も見られます。

6/2 17:47追記
SIerが付き合いのある上位の会社、もしくは親会社などにSESとして要員を出すケースもあります。Xにてご提供いただきました。ありがとうございました。

自社サービスで人が余ったのでSES

以前よりスタートアップ企業で見られるものなのですが、エクイティファイナンスやデットファイナンスを元にエンジニアを正社員採用して事業を開始したものの、自社事業が軌道に乗らずにマネタイズに困ったために正社員をSESに出すというものです。どこかのタイミングで自社事業に戻そうという気持ちからそれなりのサイズ感のある受託ではなく、期限の決まっているSESで話を進めがちです。

元々が自社サービスに関わるために入社した社員たちなので、他所の企業でクライアントワークをするには抵抗がある人たちが多いです。ある程度退職するリスクがあります。

実質フリーランスエージェント

ここのところ新規参入してきたSES企業に見られるものとして、一応SES用の人員の正社員採用はしているものの追いつかず、人が集まりやすいフリーランスエージェントになるというものです。

正社員採用に対し、フリーランスの営業代行は並行して動くこともできるため人材が集まりやすいという傾向があります。

発散し、拡大していくSES

SESについては変な企業が多いものの、下記の観点から一定の合理性はあります。

  • 解雇がしにくい日本の法律

    • DXや新規事業など、スポットで欲しい人材を正社員採用することに対する合理性への疑問

  • 転職回数が気にされる中途採用市場

    • 人材の流動化の過渡期、歪み

社員の労働力をシェアするという考え方は合理的です。候補者にしてみても、事業共感しにくいものの労働条件が納得できる現場に入れたり、交渉次第ですが所属企業で現場変更ができるなどのメリットはあります。

自社サービスの採用をしていると、どう見てもSES向きという方も居れば、SESの採用でどう見ても自社サービス向きという方も居られます。

悪く言われやすいSESですが、社員や顧客、そして法的に害を及ぼさない形でSESが存在している分には良いと考えています。そして「SESだから⚪︎⚪︎」という論調は、状況を整理していくと主語が大きすぎるのです。

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