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不景気にこそ意識したいBizDevとサービスオリエンテッド

 今回はBiz(ビジネスサイド)とDev(研究開発サイド)の接続についてお話をしていきます。

往年のガジェット

 突然ですがまず私が手元に置いてあるガジェットについてご紹介しましょう。SHARP PA-8500 電子手帳です。電子手帳の収集というのは趣味としてはあまり認知されていないのか容易に購入できました。

 1990年に発売されたらしいこの電子手帳。とにかく多機能さをアピールしてかボタンが沢山あります。薄型なので押しにくい。UI/UX全盛な今からすると説明書無しで時刻合わせをしたり、メモを起動して日本語・英語を入力するのは中々に推理が必要です。左側にカードを挿すと機能拡張ができます。技術計算カードというのを挿すと関数電卓になります。

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 電訳機(痺れる名前)6ヶ国語会話カードを挿すと、シチュエーション別に使いがちな言葉がつらつらと表示されます。

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 これは旅行の一発目。「JALのカウンターはどこですか。」流石はバブルだけあってJALです。行き先はハワイ?翻訳ボタンを押すと英文が表示されます。その隣にある発音ボタンを押してみましょう。

 発音!

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 ホゥェア イズ ザ ジャル カウンター。

 うーん、通じる感じがしない!

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 随分と限定的ですが「スコッチの水割りを下さい。」

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 アイル ハヴ ア スカッチ アン ウォーター、プリーズ。

 これ一台で海外旅行に行けと言われたら無事な感じはしないですね。英語ができない芸能人にこれだけ渡して海外都市に放てばバラエティ番組の1コーナーになるかも。

 30年前なのでこうした蓄積がPDAやガラケーになっていったわけですが、マーケティングがTVラジオ新聞雑誌だった頃であり、ユーザーからのフィードバックが少なかった時代です。

 現代のiPhoneあたりと比べるとその取り組み姿勢が異なることに気づきます。ユーザーのコミュニケーションはこうあるべきとデザインしたところから始まったiPhoneに対し、この電子手帳は技術者が(限定的なメモリ空間上で)できることをてんこ盛りにした形です。

技術オリエンテッドとサービスオリエンテッドと

 セミナーや採用シーンなどで技術オリエンテッドとサービスオリエンテッドという言葉を使っています。期せずしてホリエモンが同じことを話していましたのでそちらに用語を寄せてみました。因みに下記の番組です。

 ざっとお話すると下記のようにお話しています。

・技術オリエンテッド
 技術者や研究者が作りたいものを作ったもの

・サービスオリエンテッド
 社会やサービス、あるいは社内でも良いが何かしらの課題を見つけ、それに対して技術的なアプローチによって設計・実装・解決をするもの

 先の電子手帳は技術オリエンテッドの好例でしょう。ビジネスマン必携アイテムとして売れ、私の父親も購入していましたが、すぐに飽きていました。一般的に技術オリエンテッドなアプローチで一般ユーザーに長く使われる技術というのは非常に少ないです。理由は明確で発想の過程にユーザーが存在しないためです。

 一方のサービスオリエンテッドは最初からユーザーを想定しているため、軸がぶれない限りは使われるものができあがります。

 技術オリエンテッドな話は過去を遡るといくらでも出てきますが、個人的に好きなエピソードはナチスドイツの巨大戦車 マウスです。技術者研究者の好きにさせると明後日の方向に飛んでいく可能性があることを象徴しているエピソードですのでお手すきの際にどうぞ。 

理由の後付は厳しい

 私も大学では完全に技術オリエンテッドな人でした。情報系博士が取り組む領域の辛いところは、本当に需要が差し迫ってあるものは勢いのあるベンチャーやGAFAが襲いかかってくるので研究室の数名では勝てないところです。勢い卒業するためのペーパーにするためにニッチなところを狙ったりするとまず使われないものができあがります。それでも予算を取りに行ったり、そうでなくてもその必要性を背景のセクションで書かねばならないのでこじつけるわけですが、非常に苦しい。10年以上試行しましたが満足の行くこじつけはできませんでした。

BizとDevがぱっくり分かれている組織

 今回このテーマでお話をしようとしたのは下記のようなお話をお聞きしたからです。

 自分たちは良いものを作る。使う用途はbizな人が考える。10年前にここで言うbizをこじつけるアプローチで失敗した自分には懐かしさがある反面、一周回って可哀想だなと感じました。

 とりあえず作ってみてから使い方を考えてくれる人を探すアプローチは今でも耳にします。以下の伸びるスピーカーはWBS番組内で「使い方を考えてくれるパートーナーを募集」としていました。パートナーが見つからなかったらどうしたのかなと思うと事業仕分け経験者(された方)としてはお腹が痛くなりましたが、その後、衣類メーカーが手を上げたようです。

研究開発と出資者

 特段Bizに繋がらない研究開発というのはある一定以上の景気や、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代からそうであったようにパトロンが居た場合に成立するものです。出資元が例え国であっても期限が来たり、他に災害などで出資が増えれば永続性を見込むのは厳しくなります。出資元が会社であれば「あそこ、不採算部門なんですよね」で解散することはザラにあります。最近転職活動をされている方にも多いです。ましてやBizの思考を丸投げしていた人たちに「色々考えてみたのですが無理っす」と言われたら即吹き飛びます。

 つまりは不景気において「自身の研究費は永続的である。何故なら必要な研究だからだ(ただしbiz的な理由や需要はない)」というロジックは成立しません。需要を想定していない研究開発はメッセージボトルのように「世界の誰かが必要とするかもしれないもの」「いつか使うかも知れないもの」であり、出資するパトロンの注意を不況下でも引き続けられるかというと難しいでしょう。

 ご注意いただきたいのは研究を否定しているわけではないということです。需要を想定していない研究に対して出資継続の判断は少ないというお話です。かつての事業仕分けでは突然質疑応答が繰り広げられ、しどろもどろになった研究責任者たちは家計簿感覚でバサバサと予算カットされました。国民の生活にどう繋がっていくのかその意義を説明できないと予算カット対象になったのです。

DevをBizに繋げる唯一の方法

 現在手がけているDevをどうBizに結びつけるのか。これは研究開発を続けたい方々は全員が意識しなければなりません。

 先にお話をしたように私も自身のDevを元にBizにこじつける試みを10年やりましたが、どうにもうまく行きませんでした。

 まずは複数の社会課題をフラットに捉える。それに対して技術的なアプローチを考える。この時にいきなり自身の研究テーマをくっつけようとすると歪みます。あくまでも手段を問わずアプローチを考えます。これを何十、何百パターンと繰り返した中に、「たまたま当該研究開発テーマが適用できた」となれば、それがBizと自身のDevが結びついた瞬間であり、この方法が唯一だと考えるに至っています。

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