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コストセンターと呼ぶ風習:社内政治・パワーバランスのお話

先だって「人事はコストセンターである」という話題がTwitterで話題でした。ご本人はコストセンター=不要ではなく、コストが発生する中でどう貢献するか考えなさいという趣旨だったようです。

私自身、研究職、エンジニア職、情シス職、エンジニアリングマネジメント職、アカウントマネジメント職と変遷してきたのですが、幾度かコストセンターと呼ばれたことはあります。コストセンターという言葉と連動する形で社内政治があり、社内のパワーバランスがあります。

現在弊社では様々な組織について見聞させて頂くことが多いのですが、多かれ少なかれどの組織にもパワーバランスは存在しています。私が評価制度や給与制度の作成、リーダーシップ育成研修をする際には必ずパワーバランスの確認と観察から入っています。今回は社内のパワーバランス、そしてコストセンターという言葉についてお話をしていきます。

コストセンターを定義しがちな組織は、概ね殺伐としている

過去の私の経験で行くと、情シスが管理本部傘下にあった時はコストセンターとよく呼ばれていました。また、ある開発組織で識学が導入された際も、当時担当していたエンジニアリングマネージャーはコストセンター扱いされていました。

端的に言うとコストセンターは「直接利益を産まない部門」を指すことが多いです。売り上げを上げる営業、人を集めるマーケター、売り物を作るエンジニアに対し、それ以外を区別するケースが一般的です。優先順位についてはまちまちで、発言権のある経営層がどの部門出身かで決まる勢いです。

「コストセンター」という言葉が飛び交う企業は大筋で殺伐としているのですが、社内に士農工商のような職種区別のようなことがなされている状態が多いです。

コストセンターか否かを区別することによって何かメリットはあるのでしょうか。非コストセンター部門の溜飲が下がる、ストレスのはけ口になっているパターンがあります。また、こうした組織においてコストセンターと呼ばれる部門の評価や待遇は極めて上がりにくい傾向が見られます。

いくつかよくある歪んだパワーバランスのパターンについて見ていきます。

営業職が強いパターン

社内政治的にも人数的にも営業職が強い組織はかなり見られます。過度なアウトプット志向に経営の意思決定をそろえた場合、必然的に「何でも良いから売り上げを上げる」組織も営業職が強くなります。

ワーキングプア時代の就活時に、ある広告代理店営業担当者の方とお話をしたことがあります。その際に仰られていたのが「我々は良いものを売るとは限らないです。『こんなのどこが良いの?』というものにも価値をつけて売らないと行けないんです。それが仕事です。」というものでした。過去の職場ではありませんので念のため。そしてその数年後、営業職の大変さを自身も体験することになります。

事実、営業がやたらと強ければプロダクトが微妙でも売り上げは上がることはあります。リピートや紹介があるかは難しいところですが。

これに対し、営業職が弱いパターンもあります。それが次です。

開発職が強いパターン

エンジニアの評価の文脈でもよくお話しさせて頂くのですが、「良いものを作っても売る人が居ないと売れない」というのは真理です。過去にも何例かそういった開発組織のお話はあるのですが、Webページでのリリースや、最小限のプレスリリース、通しかやってこない展示会への出典しかやってなかったりします。買ってくれる人にうまくリーチできないと、ある種のボトルメールのような「いつ連絡が来るか分からない待ちの状態」になります。

営業職なしに、開発職主体で存在できる組織としては下記のような条件があると考えています。

  • 親会社に対する子会社のように明確な顧客定義があり、揺るがないため対外的な営業組織が不要

  • 何かしらのインバウンド営業に成功しているため、営業専任者が不要

  • カスタマーサクセスやカスタマーサポートが不要な、売り切り型の商材を扱っている

弊社にも開発組織における営業職採用のご相談を頂くことがあるのですが、経験上からも「開発組織主体の組織における一人目の営業採用」は非常に難易度が高いです。個人的には次のような条件に合致する商材を扱う企業での一人目営業職採用は、一人目エンジニア職採用より難しいと考えています。

  • 売り物が分かりにくい

  • 売るイメージが分かりにくい

  • 評価制度・給与制度が営業職向けでないためインセンティブ設計がなく、売っても売らなくても評価が変わらない(頑張って売っても評価に反映されないのでやる気が出ない)

私が経験したオフショア開発の営業などはまさに1-2番目だったのですが、安さ以外で顧客を見つけることは非常に難しいものでした。

SIerやコンサルの営業では顧客の課題をヒアリングし、提案できないと明後日の提案をしてしまうことから、喋れるエンジニアや元エンジニアを前面に出した方が効率的だったりします。

研究職が強いパターン

開発職と同様に「良いものを作れば売れる」という発想になりやすいのですが、プロダクト開発とはまた一段深いところに位置しているため、顧客との距離が更に離れます。

過去にWBSにてある研究所が「折れ曲がるスピーカー」を作ったというニュースがありました。展示会で研究者達が「何に使うか分からないのですが、作ってみました。アイディアのある方のご連絡をお待ちしております」という話をしていました。その後、衣類メーカーと無事に契約できたようですが、普通は何も起きません。

そうでなくとも民主党政権下では「国民の生活にどう繋がるのか」を説明できないプロジェクトはことごとく仕分けられたため、未だにこうしたプロジェクトが存在できるということについて疑問と羨みを抱くニュースでした。

経理が強いパターン

金銭的な門番である財務経理部が強いパターンです。将来を予測した上でお金を出せる・出せないという判断をするのは全く問題ないのですが、たまに見かけるパターンとして、当該部門に対して「出したいか出したくないか」を感情ベースで決めるというものがあります。社内であってもきちんと費用に対する意義を説明することや、最低限の礼節は必要です。ただしそれらをクリアしても尚、機嫌取りをしないと行けないような状況のお話もあり、妙なところでブレーキをかけるのは非論理的、非効率的でよろしくないなと感じます。

法務が強いパターン

法務が強いというパターンもあります。企業や事業の暴走を止めるストッパーである必要がある一方、時として過度なブレーキになることもあります。もちろん年に数回話題になる法的に問題のあるスタートアップや新規事業は論外なのでストップをかけるべきなのですが、グレーゾーンに差し掛かる遥か手前でストップをかけてしまうケースがあります。

実際のところ、(私もマッチングサービスに携わり上場までしましたが)グレーゾーンをマージンを削りながら進めないとなかなかイノベーションというものは起きないという側面はあります。事業理解をしつつ、法的なマージンを残しながら共に攻めてくれる法務の専門家が理想です。一緒にロビイング活動をしてくれるようなパートナーだと更に理想ですね。

人事(採用)が強いパターン

コアコンピタンスが「人」の組織ではあり得る構図です。人事採用担当が妙に強い企業はあります。人事採用担当が強すぎると、人事採用が花形のような位置づけになっている組織もあります。採用対象は営業だったり、SESやSIerのような人月計算ベースの開発職だったりすると、採用そのものが間接的に売り上げ貢献に繋がる側面もあると言えます。

過去にある人事採用担当に「私の責任範囲は入社日までです」と断言されたケースがあるのですが、これは実に厳しいです。採用した人が無事にオンボーディングし、活躍し、採用コストと給与以上の活躍をして貰わないと企業体としては成立しません。

採用がどんどん決まる企業の人事採用担当は楽しいですが、社会人としての深み、人事としての深みを感じるためにも労務や評価業務にも挑戦して頂きたいところです。

特定の事業部やチームが強いパターン

社内に事業部間の明確な優劣が決まった結果、誰も行きたがらない部署ができているケースはあります。新規開発と保守運用でチームが異なり、人材の循環がしていない場合も「あそこに配属されたら給与も評価も上がらない」という状態になっているところがあります。

変わったパターンで、「新卒が一旦既存メイン事業に配属され、成長したら新規事業に異動になる」というものも見たことがあります。この場合、既存メイン事業という「収益の柱」としてのラベルと「育成部門」というラベルが両方貼られることになります。新卒からすると「育成部門」としてのラベルが強くなってしまうため、新規事業が栄転、既存事業に止まるのは出世の頭打ちという見られ方も産まれてしまいます。結果として、早く卒業したい新卒と、当該サービスを明確に志望した中途だけが残ることとなり、マネジメントしにくい状態が見られました。

個人的に見たことがなくて、あるなら見てみたいパターン

総務が強い部門は見たことがありません。是非見てみたいので、教えて頂けると幸いです。

パワーバランス懸念で子会社として独立する風潮

近年、日系大手企業にて開発組織を子会社に移す企業が散見されるようになりました。

本社基準では評価や給与が合わず、社内政治もややこしいので別会社にしてしまうというケースです。私が見たことのある組織でも、何をどう評価しても「年齢」の変数が強すぎて待遇が上がらないケースがありました。また、ある企業では複雑な計算式の中に持ち家、借家、扶養家族人数、居住地などの変数が絡んでいて「単身者には厳しいらしい」というケースもありました。

開発組織の独立は一見合理的に見えます。社屋ごと他所に行くケースもあり、社員は社内政治を感じにくくすることを狙うケースも聞きます。子会社社長は厳しい社内政治を一身に受けることは想像に難くないですが、働き手としては有効に感じられます。

ZOZOテクノロジーズは分かれた状態から統合されたケースですが、研究開発部門は別のままです。このあたりの経緯も含めてどこかでお話を聞いてみたいと思っています。

外注してはじめて分かる「コストセンター」のコスト

コストセンターと呼ばれる部門に進んで前向きに志願する人というのはほぼ居ません。これまで見てきた組織でも、「他部署からパフォーマンスが出ずに異動になった」「異動先が見つからずにやってきた」「プライベートの事情により負荷の低い部署に異動した」「疲れて異動した」といったようなケースをよく目にします。

どう見ても不健全なのですが、過去にコストセンター呼ばわりしていた情シス部門を解散し、外注したという話があります。最後に残っていた一人が退職し、代わりに準委任契約の人員を入れたところ、月額300万円弱払うことになったそうです。

実際に契約しないまでも、今の業務内容を外部に出すとどのくらいのコストが掛かるのかという観点で見積もりをするというのは、意識改革の上で必要なのではないかと感じています。

定期的な異動が人材育成のポイントでは

最近、あるお取引先で将来の幹部候補を想定して新卒を育成するにはどういう経験をさせれば良いかという議論をしていました。新卒入社から10年で役員になるパターンがいくつか確認されたのですが、一つの傾向としては「いろんな分野を意図的に経験させる」というのがあるようです。海外だったり、新規事業だったり、子会社だったりと敢えて異動させて経験を積むというスタイルです。

このように多様な経験を経て幹部候補を育成していく人材のキャリア形成が正だとすると、つまりは社内のパワーバランスが不均衡だったり、一カ所に人員を留めておくというのは、長期的に見て視座が低いとも言えるのではないかと考えます。

少なくとも、コストセンター呼ばわりをする事象については、同じ社員なんだから仲良くしなよと思いますね。社内に階層を作って溜飲を下げるより、社外に仮想敵を作り、追いつけ追い越せをするのが健常かなと感じています。業界トップだと難しいんですが。


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