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新卒採用・新卒紹介担当を専任にすると弊害が起きやすい理由

 HR界隈のTwitterを見ていると毎日誰かしら炎上している印象です。特に新卒界隈は危ういです。新卒採用担当(リクルーター)が就活生相手にやらかしていたり、かと思えば新卒紹介会社のトップが失言をしていたりします。これは何故なのでしょうか。

 今回は新卒採用に関わってきた一人として自身の観測範囲のお話をします。例によって特定の企業を指定したものではありません。そして企業はどうするべきなのかについてお話していきます。

新卒採用担当の快楽

 自社が候補者に対して強気に出られる場合、面接官が全能感を感じ安い傾向にあります。入社月が迫っていると、不人気企業でも強気に出られます。

 これが実に危うい。自身に候補者の生殺与奪の権利があるような発言をしたり、それらしい大手企業の肩書きをぶら下げたリクルーターを名乗る人たちがOB訪問を口実に女子学生に言い寄ったり、Twitterの女子学生アカウントに絞ってES添削しますと声掛けしたりしていたりと枚挙にいとまがありません。

 Clubhouseが流行っていた頃、外資系コンサルの若手が就活生対象のチャンネルを作って得意げに持論を展開してたところ、10年選手のコンサルがやってきて説教部屋に変化したのだとか。

 ある程度の企業の看板を背負ったとき、そこに憧れる就活生に対して外弁慶になりがちです。私自身、「普段あんなにローパフォーマーなのに?」「その棚上げ力、重量上げ選手も真っ青だな」と驚かされることも多々ありました。相手と明確なパワーの優位性が感じられる環境だと、人は変わりやすいようです。

 一方で(これは新卒に限りませんが)不人気企業であっても不人気さを認識していないまま「面接官は候補者を裁かなければならない」と認識したまま接触する場合もあり、候補者から「横柄な面接官が出てきた」という口コミが残りやすい傾向もあります。

何故新卒リクルーターは神になり、問題を起こすのか

 問題を起こす新卒リクルーターはどのようにして創られるのでしょうか。実際に何例か見かけましたがいくつか原因となる要素があるようです。

要素1:対象が狭い

 問題が起きやすい新卒採用のシチュエーションを有り体に言ってしまうと「子供が子供を教えている状態」です。1〜数年前の自身の就活経験を正として語る。母集団n=1の世界から始まります。よほど興味を持っていろいろな話の人を収集しないとn=1から出ていくケースは稀です。

 就活生というのは修士を加味しても21-25歳くらいが対象であり、就職活動という限定的な側面を指します。対象となる人物像が拡大することはありません。

 こうしたことから他の業務に加えて新卒リクルーターが「就活完全に理解した」と思いやすい状況にあります。

要素2:拘束時間が長い

 新卒採用はかなり時間を割く必要があるため、特に採用人数が多かったり、(言葉に出すことはありませんが)事業戦略が「いかにがむしゃらに働く新卒を採用するか」だったりする企業もあり、新卒採用専任になるケースがあります。

 そうすると通年で業務時間の間、ずっと就活生と向き合うことになります。土日の採用イベントも多く、就労時間は長いです。要素1で述べたようなマインドの中で成果を出すと褒められる。企業側も新卒採用が要で且つ当該リクルーターで成果が出ていると依頼をしない理由がなくなります。

 交流の幅が広がらないまま、ずっと新卒採用を継続するリクルーターが完成します。

要素3:就活生から見て憧れの存在になる

 ややこしいのが、就活生にとって憧れの企業で実績を残し(たと言っている)、堂々と目の前で振る舞っているリクルーターについて憧れを抱く傾向にあるということです。これは社会生物学あたりで説明できるんじゃないかと思ったりするほどですが、実際に総合職配属になった後に志願してリクルーターになる方は一定数居ます。

 憧れられたリクルーターは更に良い気持ちになりますし、次の世代の視座の低いリクルーターが増え続けていくのです。

何故新卒紹介事業担当者は神になり、候補者や企業を裁こうとするのか

 特に教育が行き届いていないHR系スタートアップなどに見られるのですが、とんでもなく雑な営業担当に一定数遭遇します。商材が人の人生だと認識をしていない。

 企業側で営業トークを受けると、自社と同条件に近い企業をサンプルとしてスカウト時の返信率や内定者数などを見せてくれるのですが、入社者数を隠してプレゼンしてくることもあり非常に残念です。ガラケー時代の出会い系サイトのような「いますぐ会える!」「会うためにはこの(スカウト)チケットを買って!」みたいなウリ文句に辟易としたりします。

 10年近く前、私の後輩にも新卒紹介事業を起こした人たちがいました。実に近くで観察できたのですが、ディスカッションを近くで聞いていると「友達をマネタイズする」というのが発想のスタートだったようです。似たような話を喫茶店で聞いたことがありますが。

 私自身、人材紹介会社のエージェントの皆さんに教育をしていた際、介在価値についてのお話を必ずするようにしていました。紹介会社たるもの顧客(求職者、紹介先企業」に対しての介在価値を提供できなければAIや検索エンジンで十分です。ましてや(先日Twitterで話題でしたが)任意の業界について「衰退業界に優秀な学生を送り込みたくない」などと揶揄するのはおこがましいことです。本来であれば衰退業界だと思うのなら、そこをアップデートできるような人材と、そうした人材を獲得できるような土壌づくりを企業と共にすべきではないでしょうか。

対策

 1つ目は守備範囲の拡大。新卒採用は1年を通して採用活動をするため慢性的に忙しいのですが、それでも視野を拡大し、自身の将来のために拡大するというものです。新卒採用だけでなく中途採用もする、評価、労務も担当する。つまりは入社後のプロセスにも興味を持つことが必要です。

 2つ目は職種やグループ企業などで不人気な採用を経験することです。工夫すべきポイントに気付かないと何もうまく行かないので、学びが非常に多いですし何より謙虚になります。

 紹介会社の場合は入社後の活躍まで興味を持つことです。入社して終わりと捉える、返金規定がある入社後半年まで気にするというのでは接する対象が学生、新人のままです。実際に紹介した人がどうなったかを気にするというのは短期的なビジネス上の数字には出にくいかも知れませんが、実績を残している(中途転職担当が多いですが)エージェントの方ほど紹介者とのコネクションを持ち続け、その活躍を追っています。

新卒専任の壁:企業・上長としてはどうすべきか

 実際のところとして新卒採用が非常にうまい若手社員というのは数多く居ます。多くの場合、部活やサークルのリーダー経験があって面倒見が良かったりするケースです。

 採用活動、特に新卒採用は人的コストもかかるため、成果をあげやすく本人も気持ちよくやってくれるならそれで良いように見えがちなのですが、これまで述べてきたように長期的に見ると視座の問題があります。

 加えて新卒採用専任のリクルーターには大きな壁があります。それは年齢です。20代前半をターゲットに自身の経験のみを武器に対峙してきた場合、5年を越えてくると景気も情勢も世代も変わります。この当たりを意識しながら異動、職務範囲の拡大はしてあげるべきだと考えます。本人はだいぶ気持ちよくなっているので応じないケースもあると思いますが、年齢、特に30歳の壁は厚いです。そのまま乗り越えても拗らせやすいですしね。

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