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エンジニアファーストを撤回したい企業の思惑

様々な業態の会社さんからご相談をいただきますが、ここのところ「これまで掲げていたエンジニアファーストを撤回したい」というご相談を頂くようになりました。

エンジニアファーストとは2010年代中盤から多用された言葉であり、下記のようなものを掲げながらエンジニア中心の組織づくりを目指すものでした。

  • 給与

  • 休み

  • 業務内容

  • 福利厚生

  • 残業0、もしくは1分単位の残業代精算

  • 稼働時間のn%を自由に使って良い

今回はエンジニアファーストの撤回を考える企業の思惑と、今後についてお話していきます。

アベノミクスとコロナ禍での金余り現象に支えられた「エンジニアファースト」

2010年代後半にはエンジニアの採用人数を追うことを目的に、候補者の目を引くワードとして多用されていきました。

エンジニア界隈で行くと、2015年のアベノミクスとコロナ禍での金余りの投資先として新規事業やDX関連が存在しており、その向かった先として内製化・正社員採用がありました。どうしてもエンジニア採用をしたいが達成できないために企業側が無理をしたのがエンジニアファーストであると考えています。

これまで本noteでも引用してきたグラフではありますが、改めてまとめておきたいと思います。

スタートアップ

2023年の資金調達環境は大きく変化、上場企業は米利下げ観測により大幅に反発|Japan SaaS Market 23.Q4
世界のIPO、10年で最低
Average number of investors per VC deal

https://pitchbook.com/news/articles/party-rounds-vc-downturn

資金調達金額は現象、資金調達件数は増加ということからシード・アーリー期を中心にした少額の投資が起きていると想定されます。

2022年まではJ字型成長を見込み、ユニコーン起業になることを狙った投資が多く見られました。そのユニコーンの演出の一つが正社員採用人数であり、エンジニア採用人数でした。私が2020-2022年にお会いしてきた会社でもエンジニアの給与レンジイメージをCEOに聴くと「詳しいことはよくわからないんですが、2500万円くらいまでなら出しますよ」というざっくりと金払いの良い会社さんもいくつかありました。

起業時に転職活動も並行していた2022年初頭、良さそうかも知れないと思った会社さんを2024年現在に振り返ってみると「軒並み不調」であるという事実があります。中には整理解雇を実施している会社さんも複数存在しています。スタートアップ界隈に出入りするからには投資の勉強と、投資家の気持ちを理解しなければならないのではないかと思う今日このごろです。候補者を見極めるのは困難でありおこがましいと考えていますが、企業を見極めるのも全くの困難です。

上場済みSaaS

2023年の資金調達環境は大きく変化、上場企業は米利下げ観測により大幅に反発|Japan SaaS Market 23.Q4

2022年11月から下降となり、現在は横ばいの状態です。

いくつかの仮説や今後の予想はあるのですが、ここでは過激すぎるのでYOORサロンで披露することにします。

コンサル

経営のプロ 「コンサル会社」 の倒産が急増 ~ コロナ禍での政策支援と「本物を求めるニーズ」のはざまで ~

こちらもコロナの金余りに支えられた側面があるお話です。

今でもありますが、SIerやSESが一人あたりの単価を上げるためにコンサルを中途採用したり、PjMがコンサルを急に名乗り始めたりするのを見かけます。何度か私もお会いしたことがあるのですが、コンサルと言いつつほぼ全員が何かしらの企業の営業出身者だったという新興コンサルティングファームもあります。顧客としてはそれで課題が解決すれば良いですが、急ごしらえ感は否めないのでうすら高い単価に対するバリューが提供できているかは別問題です。

外資IT

The Tech Layoff Tracker

いまだに「好待遇を求めて外資ITに行こう」という出羽守がXには居ますが、引き続きレイオフは継続しています。直近でもGoogleのレイオフが話題になりました。

アメリカやカナダに好待遇を求めて移った方からキャリア相談を受けることもあるのですが、ほぼ求人がないため、皆、帰国を考えておられました。

今回のレイオフは、グーグルがPixel、Fitbit、Nestを擁するデバイス部門を含む、他のいくつかの組織で人員の削減を行った数日後に発表された。アルファベット労働組合(Alphabet Workers Union)の声明によると、この再編で少なくとも1000人の従業員が削減されたという。

グーグル、広告営業チーム数百人をレイオフへ【社内メモを入手】

景気の良い企業はどこ?

あんまりに景気が悪い話ばかりすると、怒られるので注目している企業についてもお話します。

日系大手企業の新規事業、日系大手企業のジョイントベンチャー、既に柱となる非ITの売り上げが立っているホールディング体制の子会社などには可能性と予算を感じます。予算が終了するまでは存在すると思われますが、皆さんJTCと言うだけで避けますね。もったいない。しかしこうした企業はSIerを使うことが多いので、育成枠のエンジニアや、フリーランスが入場するのは難しいと考えられます。

SIerなども活況ですが、自社サービスやフリーランスのほうが上であるという序列を決めた人達には不評です。

特にエンジニアバブル化ではDXにせよ新規事業にせよ、内製化が正義であり、正社員雇用を熱心にする企業が企業フェーズを問わず多くありました。一方でAIなどはPoC段階で早々に諦めることも多く、チームごと解散・皆、自然退職やキャリアチェンジを余儀なくされるケースが多々観察されました。そんなことをするくらいであれば、SIerなどで即席のチームを作ったほうが経営上の合理性があります。PMFが見えたら内製化を考えれば良いと思います。

エンジニアファーストを取り下げたい企業の思惑

エンジニアファーストを取り下げたい企業の思惑はどういったものでしょうか。

週刊ダイヤモンドではデロイトの不調が長く特集されています。その中にも「クライアントファーストからメンバーファーストに転換したところ、アサイン拒否が多発したので戻す」という話が掲載されています。「余剰人員が出ていたが採用目標を達成するために採用した」というのも理解しかねますが。

単価の違いこそあれ、私が多くご相談頂くSESでも同じ状況になっています。SESは基本的に稼働できる人員を増やせば増やすほど儲けが出るシンプルなビジネスモデルです。そうした背景もあり、人数確保に奔走してきたSESはしばしば「エンジニアファースト」を掲げていました。エンジニアが働きやすい職場であることをアピールすることで入社社数を集めてきたわけです。

SESについてはその契約形態上、従業員から「稼働率を確保していればそれ以上何を求めるのか?」という議論になりやすく、「そこそこのアウトプットを怒られない範囲で出しつつ、一日八時間座っている人(座っているように装おうことができる人)」が誕生しやすい傾向にあります。

ここにエンジニアファーストを曲解した人材が集まると、上昇志向がなくワガママばかり言うエンジニアが揃ってしまいます。そこで話題になるのが評価制度です。SESは客先常駐が主ですので普段の勤務態度などは所属企業からは見えないわけですが、ここをなんとかして評価に繋げつつ上昇志向を生み出したいというご相談が多いのです。

つまるところ顧客貢献

シンプルなお話ですが、お金の出どころは顧客です。先のデロイトのお話にも共通します。顧客貢献が何たるかというところを意識しないと、エンジニアはコストセンターになり得ます。

SESで形式上は準委任契約の場合、利他性と呼び替えることもあるでしょう。フルリモートでないと駄目、フルフレックスでないと駄目、地方在住なので一切出社したくない、案件は選びたい、給与は相場以上じゃないと嫌だという言葉はいずれかの決裁者のところで拒否されます。すべての条件を拒否する必要はないまでも、自身からのすべての条件を通すにはリスクが伴います。

あまり面倒くさいことを言うと生成AIの代替が急がれるという点も含め、仕事をするに当たっての働き方の優先順位を決め、スタンスを変えていくことをおすすめします。

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