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05 - お姫様だったチョコ・2

「それで。。。それで、全部合点がいくわ。」


と驚きを隠せないおばちゃんがつぶやきました。納得がいったのか、何度もチョコを見ながら繰り返し頷いています。そして、ちょっとからかうように言いました。


「でも、お姫様の割には、ずいぶんと野太い声よね。」


するとすかさずチョコが異議を唱えるかのように、おばちゃんに向かって、ウォウウォウとその太い声を大きく張り上げました。


「あ、チョコちゃん、声のこと気にしているみたいです。もっと可愛い声で鳴きたいんだけど、私はこんな声しか出ないから。本当は可愛らしい声で鳴きたいんです、って。」


「。。。それから、チョコちゃんはいつも真剣なので冗談が通じません。」
千華さんがチョコの気持ちを代弁しました。


(冗談が通じないんだ!)


私はそれがツボにはまり、思わずクスクスと笑い出してしまいました。それにつられてメグもおばちゃんも、堪え切れずに吹き出しました。そんな私たちを、体を低くして、チョコはますます恨めしそうに上目遣いで見ていました。


「そうなの?野太い声って言われるの、嫌だったの?あらまあ、今まで、声がオッサンみたい、なんて言っちゃって、ごめんなさいね。」笑いながら、でもちょっと申し訳なさそうに、おばちゃんが返しました。


「お客さんがあった時にチョコちゃんが吠えるのも、お姫様だった時の記憶がそうさせてます。自らお客様をおもてなしするのが好きだったから、彼女なりに『ようこそいらっしゃいました』ってお迎えしているんです。女王様の謁見みたいな感じですね。」


少しずつ間をおきながら、千華さんがチョコの気持ちを読み取っていきました。


「なので吠えるのは好きだから、やめないかもしれないけど。。。
おもてなしの気持ちなんです。」


「あの吠えるのが、おもてなしだったなんてねえ。。。なかなかそれは、伝わらないわ。」とつゆみおばちゃんが大きく頷くと、


「吠えてお客さんが驚いた時には、『この子、今あなたをもてなしているんですよ』って補足してあげてください。そうするとプライドが保てて嬉しいのと、怖がらせるつもりはないことをわかってもらえることで、気持ちが楽になるみたいです。」と千華さんが付け加えました。


「わかりました、そうします。それにしても。。。殺されちゃったお姫様だったなんて!でもそれで全部が解決しちゃうわ。ご飯を食べないのも、子供達とお散歩に行かないのも、簡単に人にも犬にも触らせないのも。。。全部、悲しい最期を遂げた、プライドの高いお姫様だったからなのね。」


そう言うおばちゃんを、チョコはとても満足そうにキラキラした目で見上げていました。


その時、千華さんが言いました。


「さっき、真由さんが泣いてしまったのは、真由さんも、別の場所で女王として生きた過去があるからです。その過去生で不遇にもその王国を失うことがあったために、国を守れなかったという思いがとても強い。チョコちゃんも、自分が女王になったら国をもっと良くできると思っていたのに、残念ながら殺されてしまった。二人とも、志を遂げられなかったという悲しい過去がある。そこに、共鳴したようですね。」


ゆっくりと、千華さんが続けました。
「チョコちゃんが、『真由さんなら、私の気持ちをわかってくれますよね』って言っています。『私は犬だから泣けないけど、真由さんが代わりに泣いてくれた』ってなんだかスッキリしています。」


そう言い終えると、千華さんはチョコの方を向いて言いました。


「よかったねえ、チョコちゃん。真由さんが癒してくれたね。
よかったねえ、チョコちゃん。ようやくわかってもらえたね。」


すると、千華さんが嬉しそうに声を上げました。
「あ、チョコちゃん、とっても喜んでいますよ!」


確かに、きちんと座り直したチョコの眉間がピーンと張っていて、先ほどとは打って変わった顔つきに見えました。


かたや私はというと、ただ驚いて千華さんとチョコを交互に見ることしかできませんでした。(女王って言われても。。。そんな記憶はもちろんないし、チョコの気持ちをわかってあげたと言われても、そんな自覚もないし。。。)と戸惑うばかりでした。


そしてふと我に返って、何よりもまず不思議に思ったことを、私は千華さんに聞きました。


「でも、そもそも、犬の前世が人間だった、なんてことがあるんですか?」


「ありますよ。チョコちゃんは何度も、人間として生きたことがあります。実は私も、昔、鳥として大空を飛んでいた記憶があるんですよ。」


「!!」


犬に前世があるというだけでも驚いたのに、人間に生まれ変わったり、人間が犬や鳥に生まれ変わるなんて。。。驚いて目を丸くする私たちに、千華さんは言いました。


「命あるものは亡くなった後、ズラーっといろんな存在に囲まれて、自分のやってきたことを報告する場があるみたいなんです。生まれてくる前に約束した自分のお役目を全うできていると、『自分の仕事をやり遂げたんだね』って褒めてもらえる。そうすると、次に向けて良い転生を選ぶことができるんですって。なので、どう生き切ったかというのはもちろん、どう亡くなったかというのも、とても大切なんですよ。」


「チョコちゃんは、前の生ではわけあって、今生は犬として生きることになったけど。しっかり今までの記憶を覚えている、とても霊性の高いワンちゃんです。全ての犬がチョコちゃんと同じということではありません。」


びっくりして改めてチョコを見ると、得意そうに尻尾を振ってこっちを見上げていました。その姿はまるで、(そうなのよ!アタシ、実はスゴイのよ!)とでも言っているかのようでした。


その姿を見て私は、(なんて面白いんだろう!こんな風に犬のことがわかるなんて。)とワクワクするのを抑えられずにいました。そして、(お父さんはチョコのことをバカ犬と言って馬鹿にしていたけど、チョコの名誉のためにも、早速このことを報告してあげなくちゃ)と一人ほくそ笑んでいました。


今日の最大の目的だったチョコとの会話を終え、私たちは今しがた聞いたばかりの、にわかには信じがたいような話に興奮冷めやらずのまま、つゆみおばちゃんが用意してくれた美味しいランチを楽しみました。


ところが、これはまだ始まりに過ぎなかったのです。


つづく。

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